和桜

ディザスター・アーティストの和桜のレビュー・感想・評価

3.9
史上最低のカルト映画と称される『the room』の製作過程を描いた作品。総額600万ドルがつぎ込まれたと言われ、企画から監督/脚本/主演と全てを自らが担ったトミー・ウィゾーの情熱と狂気が余すこなく映される。もちろんお金も全て彼が出しており、資金源や出自は映画の中でも不明のまま。
そんな謎に包まれた男は養成所で出会ったグレッグと共にロサンゼルスへ渡り、役者を目指すが全く認められず、それなら自分達で映画を作ろうと動き始める。

一見すると王道のサクセスストーリーのようにも聞こえるけど、実際は邪道とも言える「お金の力」をこれでもかと見せつけられる。思い付いた事はポンポンと実現され、莫大な予算をかけた機材とセットを用意し、自分の意見に従わないプロたちは解雇していく。現場は大混乱に陥りながら、映画制作の知識や監修が皆無のまま映画は完成し、プレミア上映まで開かれる。

ただ、幸か不幸か映画はそれを見た人間から評されるものでもあって、観客の心までを思い通りにすることは出来ない。自分にとって最高の映画が完成したと思っていても、観客にとっては失笑を禁じ得ないことだってある。
そんな現実を目の当たりにする事で、金持ちの道楽は一人の映画制作者の苦悩へと昇華される。邪道と言ってしまったけど、見事な王道へと生まれ変わった。お金では獲られない承認欲求に突き動かされていた彼にとっての終着点。観客の反応に困惑するトミーへのグレッグの言葉、そこからの切り返しがめちゃくちゃ熱かった。

トミー役はジェームズ・フランコが見事に怪演し、彼自身が監督でもあるメタっぷり。グレッグ役は弟のデイヴ・フランコが演じていて、スクリーンに広がる現場の大混乱や作中シーンを楽しく演じていた事が伝わってくる。
結局はトミー・ウィゾーが何者であるのか分からないのが最も恐ろしいんだけど、そのミステリアスさも『the room』がカルト映画たりえる助力となっているはず。
映画制作において最大の難点でもある資金面での葛藤や苦悩はない、だからこそお金では埋める事ができないものが浮き彫りになって、A24配給作品の中でも地味に上位に食い込むお気に入り作品になってしまった。
和桜

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