笹井ヨシキ

ライフの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

ライフ(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

「チャイルド44」のダニエル・エスピノーサ監督、「ゾンビランド」「デッドプール」の脚本家コンビのSFスリラーということで鑑賞して参りました。

とても豪華でSF考証の行き届いたB級映画という印象の作品で面白かったです!

好きだったのは、本来映画では美徳とされる自己犠牲や利他的な行動というのが全然報われず無駄になったり裏目に出たりするという(良い意味で)底意地の悪い脚本が、むしろB級映画に誇りを持ってるかのようなスタンスが感じられたところです。

カルビンを隔離し地球に飛来するのを阻止する目的を完遂するためクルーたちは死をも厭わず犠牲になっていきますが、その犠牲は報われることなくカルビンはどんどん大きくなり成長を繰り返し事態は悪化の一途を辿っていきます。
普通の映画なら登場人物の誰か一人くらいの行動が報われ英雄的に扱われてもおかしくないんですが、ラストに至るまでそういった甘い展開がなく逆に清々しい思いになりましたw

最初に犠牲になるのがライアン・レイノルズ演じるローリーというのも、「これから誰が犠牲になってもおかしくない」感が出て非常にスリリングですし、仲間が死んでいくのをむざむざ見守ることしかない恐怖演出も良かったです。
二番目に犠牲になってしまうキャットの死に方なんか特にキツくて、カルビンに直接食われないだけむしろ残酷な感じがしましたね。

人間描写も非常に簡潔かつ丁寧になされていて、ヒューとカルビンの倒錯的な関係性や、ショウの家族への想い、デビッドの地球から何らかの逃避を行っているかのような描写などのクルーたちの背景が映画に厚みを与えていましたよね。

特にヒューは障害者であり自分の足を再生できるかもしれない可能性を秘めた、または子供のような存在となっているカルビンに愛情を向けていて、かなり危うい感じがしています。
誰からも理解されない愛情を抱えてしまったヒューがどういう心情でいたのか、実験室での事故は果たして本当にヒューの不注意なのか、ヒューはカルビンに下半身を取り込まれていましたが本人はそのことに本当に気づいていなかったのか、描写されていないところを想像させるくらい奥深さを感じるキャラだったと思います。

また地球へ帰らないと決めていたデビッドが最悪な形で地球へ帰ってしまう皮肉が詰まったラストも不謹慎ながら大爆笑してしまって、エンドロール中ニヤニヤしっぱなしでしたw
今作は、自己犠牲→事態の悪化→自己犠牲→事態の悪化・・・ の繰り返しが楽しい映画なのですが、映画が終わったあともその繰り返しが終わりなく続いていくような感じがあって、ただやりたいだけではない強烈な印象を残してくれるラストだと思いました。

あえて言うならカルビンの造形が後半に行くにつれ若干の陳腐化してしまうのは否めなかったかもしれません。
特に序盤のプニプニしたやつがいきなり襲ってくるのが怖かったのに、後半ではショウを威嚇しているかのような表情が読み取れてしまって、若干既視感を感じてしまいましたね。

とはいえ、劇場でこういう作品を見れるのはあまり無いことだし、豪華キャストで超お金のかかったB級映画を堂々とやってくれた心意気に感動しました。
今年はSF映画が豊作ですが、今作も間違いなくその一本に入るであろう良作でした!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ