くまちゃん

THE BATMAN-ザ・バットマンーのくまちゃんのレビュー・感想・評価

4.5
ハードボイルド・クライム・サスペンス
ヒーロー映画というより探偵映画。
探偵映画3時間は長く感じる。

物語上探偵役を務める誰かが必要でありそれがバットマンである必然性は皆無。
全体的にノワールな雰囲気が先行し、地味な印象を受ける。
しかし、ブルースはバットマン活動を始めてわずか2年であり駆け出しヒーローが遭遇する最初の大きい事件である事を考慮すると、派手なアクションヒーローではない部分に整合性がとれている。
バットマンスーツもバットモービルも従来のデザインより簡素で、この事件を乗り越え、さらにカスタマイズされていくのだと想像すると胸が高鳴る。

物語の中核を成すのが「復讐」である。
ブルースは親の仇、セリーナは友人と母の仇、リドラーは資本主義そのものに対して。

復讐に生きてきたブルースが
洪水の渦中で逃げ惑う市民を先導する様は、「ジョーカー」で暴徒達に崇め奉られたアーサーと類似していた。
各々独立した作品であるとはいえ、バットマンとジョーカーの合わせ鏡的な関係性を表象している気がした。
バットマンは発煙筒(光)で民衆を導く英雄へ
ジョーカーはゴッサム(犯罪の象徴)のカリスマへ

闇の権化であるバットマン、暗すぎて見えづらかった。
アクションはロジカルで見やすく、比較的リアルに描写されていた。
リドラーの被害者やバットマン、セリーナに至るまで何らかのペルソナで覆われた二面性を宿していた。
リドラーが逮捕されて尚、同士を募り煽動し、暴徒と化す群集心理の恐ろしさ、
死せる孔明生ける仲達を走らす状態が観客の不安と興奮を煽る。

バットマンスーツは筋肉質なのに対して
ロバート・パティンソン自身はアスリート体型なため、上裸の場面があるにも関わらず肉体的説得力は希薄で、コスプレ感が増した要因の一つだろうと思う。

公開は延期され3月に至った事を踏まえ
少し考えることがある。

内容的に洪水に街が飲み込まれる場面があるが、なぜ公開日を3月11日に設定したのか。この日がなんの日なのか知っててあえてなのか。気が付かずなのか。
洪水と日にちで海馬が刺激されないとしたら、あの大きな災害が風化してきているということなのではないか。
議会議事堂襲撃やゾディアックを想起させる部分が含まれる本作において
一番大きく辛い記憶を喚起できなければ
これほどシニカルなことはない。
くまちゃん

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