arin

THE BATMAN-ザ・バットマンーのarinのレビュー・感想・評価

5.0
ゴシックでいてスタイリッシュな新生「バットマン」

「ゴシック映画だ」とあえて断言したい。
マット・リーブス版のバットマンは、作中ゴシックな建物やシンボルが溢れている。
バットマンが駆け回るゴッサムシティ。その町並みは、中世のお城や寺院によく似たビルが立ち並んでいて荘厳だ。

旧作で言えば、ティム・バートン版の街並みもゴシック的だったけど、同時に「キモカワいい感じ」が同居していた。その「キモカワ」をはぎ取ってしまえば、ちょうど今回の映画のようになる。

肝心のバットマンの容姿だって、真っ白な顔にアイシャドウのようなものをつけているものだからかなりゴシックで、なんならV系はいってる。

バットスーツ姿だと、ゴシックさがさらに際立つ。真っ黒なスーツ、ひん剥いた両目、真っ白な口元といった出で立ちで、その姿はバットマンと言うよりはオペラ座の怪人をアレンジした某ホラー映画の怪人そっくりだ。

そしてなによりゴシック映画といえるのは、画面の作りである。
近視眼的なのだ。
視界が狭く、ロングショットよりもクローズアップのほうが目立つ。
視界の外に何かがいる。何がいるのかわからない。気をつけろ。
――そういった緊迫感に満ちている。

ストーリーが進むにつれて、つまりバットマンが成長するにつれて、視野はクリアカットになっていく。
それは視野狭窄だったものが成長してより広い視野を手にしてたことを象徴しているようだ。

さきほど怪人と書いたが、登場時のバットマンはヒーローと言うよりそれに近い。
バットマンは陰惨な復讐鬼として登場し、過剰なまでの暴力で荒事を解決しようとする。
正義が暴走している状態で、なんの解決にもならないことは他ならぬバットが痛感している。

今回のヴィランとなる「リドラー」もバットマンと同じく暴走した正義感の持ち主だ。
リドラーの周囲は意図的に「アノニマス」や「Qanon信者」の起こした一連の騒動をオーバーラップさせている様子。
リドラーは正義か?
バットマンがどのような道を選ぶかは、劇場でお見届けを。

散々ゴシック映画であることをいい連ねてきたが、本作には様々な作風が取り入れられている。
猟奇死体が次々に登場するのは「セブン」や「薔薇の名前」といった良質のミステリー&ホラー映画を連想する。
なぞなぞ職人ことリドラーはミステリー性を担保するのにまさに適役なヴィランといえる。

そしてそして、なんといっても本作はヒーロー映画である。
映像がカッコいい。カーチェイス、暗闇での肉弾戦。
バットモービルの初登場シーンは叙事詩的だし、警察署内でのワイヤーシーンは映画史に残ると言っても過言ではないくらいのスタイリッシュさだ。

この映画にはまだ語りたいことがある。
ゴッサムの政治的な暗部だったり、セリーナの美しさだったり、バットのラブロマンスだったり、ゴードン警部との友情だったり、くすっと笑えるところが随所にあることだったり。
最後にこれだけは言っておきたい、音楽が大変よい。
民族的な弦楽器を使ったテーマ曲はシビれる。
arin

arin