ジェイコブ

THE BATMAN-ザ・バットマンーのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

暴力、殺人、ドラッグと、犯罪の蔓延するゴッサムシティに2年前彗星のごとく現れたダークヒーローバットマン(ブルース・ウェイン)。犯罪者達は夜空に彼を呼ぶコウモリの光バットシグナルが掲げられると、忽ち恐怖に怯えた。そんなある日、次期ゴッサムシティ市長候補が何者かによって殺害される事件が起こる。ブルースはゴッサム市警の協力者であるゴードン警部補の依頼を受け、リドラーと名乗る殺人犯の正体に迫る。ブルースは事件を追っていくごとに、ゴッサムシティに蔓延る汚職、さらにゴッサムを影で牛耳るマフィア、カーマイン・ファルコーネにたどり着くのだが……。
DC作品最新作。本作からバットマンを演じるのは、テネットでその演技に脚光を浴びた人気俳優のロバート・パティンソン。バットマンが登場して間もないゴッサムとあって、ペンギンがファルコーネ(ファルコン)の部下であったり、ゴードンがまだ警部補だったりと、バットマン周囲の環境も成熟しきっていない。そのため、本作では若き日のブルースが抱える心の闇に焦点が当てられている。コメディ・アクション要素をフルスロットルにして描いた前作のスーサイド・スクワッドに対して、本作はバランスを取るかのごとく、徹頭徹尾暗く笑いの要素は一切ない本格サスペンスとなっている。高低差激しくて耳キーンとなるがこんなに当てはまる状況も珍しい笑。
青年実業家ブルース・ウェインとしての表の顔(光)と犯罪者に恐怖を与え犯罪の抑止力となるバットマンとしての裏の顔(闇)を器用に使い分けていたクリスチャン・ベール版や、気さくなプレイボーイの面を強調して描かれていたベン・アフレック版に対し、本作のバットマンは彼の持つ病的な一面、ブルース・ウェインとしての私生活も謎に包まれた影の存在としての姿が際立っている。
ノーランの三部作をイメージして、もっとドンパチしたアクションを期待した人もいるかもしれないが、リドラーがメインの悪役として登場する時点で、本作は謎解きやサスペンス要素が強くなるのは明らかであった。そもそも原作のバットマンは、相棒のロビンと一緒に事件を解決に導く探偵的存在であり、むしろ単独行動の多い前述のバットマンの方が異質な存在といえる。
ジョーカーがアメリカの抱える病的な犯罪心理の象徴とすれば、本作のリドラーは格差社会によって生み出された虐げられた人々の鬱憤そのものだろう。世間が注目するのは上層階級の人々の悲劇や不祥事で、本当に目を向けなければならない孤児や低所得者層は見てみぬふり。
彼は暴露系Youtuberの如く、有名人達の嘘に塗れた姿を白眉のもとに晒すと共に、暴露だけでは真の変化は訪れないとばかりに凶行に及んでいく。リドラーもまた、アメリカという退廃的な国家が生んだ闇なのだろう。リドラーを演じたのは、スイス・アーミー・マンのポール・ダノだが、これがまたハマり役だった。ドラマ「GOTHAM」のリドラーがコメディ要素全開で描かれたのとは対照的に、暗い過去を抱えるサイコキラーとして描かれている。いやはや、変態メガネを演じさせたら、彼の右に出る俳優はいないかもしれない笑。
ラストで今後の展開を想像させるようなアーカムでのシーンを組み込ませたことからも、新バットマン誕生の作品としては申し分ない映画だったと思う。