バートロー

THE BATMAN-ザ・バットマンーのバートローのレビュー・感想・評価

4.2
3時間かけて映画の嘘を信じ込ませてくれる贅沢な体験。ザックスナイダーの神話的、宗教画的な絵の強さとは別の画力、ゴスな音楽と相性抜群な往年の硬質ノワールの絵作り。探偵物のフォーマットにもよく馴染んでマッド・リーブスの試みは上手くいってる。目に入る美術は全て気合が入っていて、ブルースウェインの部屋一つとってもファンタジーと実在感が共存するバランスがたまらない。視覚的に3時間飽きない箱を作れたのはデカい。

時代に合わせてプレイボーイ色を廃し、とてつもない金持ちだが全く幸せそうに見えない、脆くて壊れそうな病んだ若きブルース青年に観客をじっくり感情移入させつつ、そうは言ってもお前らは特権階級の金持ちじゃんとちゃぶ台をひっくり返し、満を辞して落としにかかる被虐の名優ポール・ダノのリドラーに心をがっつり掴まれる。似た境遇でも見えている世界がまるで違う2人の足掻きは『ブラインド・スポット』の貧富版だ。ヒースレジャーに劣らないどころか、ジャックニコルソンやダニー・デヴィート級の名演で正直ポール・ダノだけで元は取れる。この街にはヒーローよりもウエルフェアが必要という落とし所も良かった。セリーナとのロマンス描写は作中の数少ない癒しポイントではあるけど、全編張り詰めた糸のようなストーリーの中で緊張感が途切れてしまう勿体ない場面でもあり、特に直接的な描写は今作では不要だったかも。