なべ

THE BATMAN-ザ・バットマンーのなべのレビュー・感想・評価

4.6
 3時間の上映時間と聞いて尻込みしていたのだが、ようやく名画座で鑑賞。いやあ、おもしろくておしっこのこと忘れてたよ!

 地下鉄の構内でドタッドタッとワークブーツの足音を響かせながら、暗闇から陰気に現れる無骨な登場シーン。ええやん。好き。
 凄惨な殺人現場にコスチューム姿で現れた際には、現場の警察官たちはドン引き。ビョーキのサイコ野郎め!って疎ましがられてるから。ええやん。大好き。
 現場に残された暗号が次の事件につながるって手口がまるでゾディアック事件。現場になぞなぞを残すナゾラー(リドラーの日本版バットマン'66での呼び名)がダークに蘇った。ティムバートンもノーランも手を出さなかったヴィランだぞ(ジョエル・シュマッカーは手を出してたけど)。ええやん。超好き。

 精神もコスチュームもまだバットマンになり切れてない(恵まれた境遇もノブレスオブリージュもまるでわかっちゃいない)半童貞仕様。大人の階段登るエピソード0.5みたいな。
 このザ・バットマンはいつものヴィランと戦うヒーロー映画ではなく、連続猟奇殺人事件の謎に迫る私立探偵ものなのだ。
 汚職事件を追うメインストーリーとキャットウーマンの出自にまつわるサブストーリーが交錯するところなどはチャイナタウンっぽくもあり、なかなかのハードボイルド。もちろん厭世的なモノローグが適宜入る。
 作品のトーンもうんと暗くて、セブンかってくらい(残念ながらレーティングを意識したのかグロさはないけど)。雨もずっと降ってるしね。
 ちなみにミステリー風味を効かせるためか、キャットウーマンもペンギンも普通の格好。つまりコスプレしてるのはバットマンだけなのね。彼だけが浮いてる。よくよく考えるとコスプレ探偵なんておかしいんだけど、その滑稽さ、ねじくれ加減がぼくは好きだ。一緒に観た平成生まれのダチは「ガキか!童貞か」と容赦なかったけど。
 そりゃ、チャイナタウンのギテスのようにヴィンテージ調のスーツで事件を追った方がかっこいいさ。でもそれじゃバットマンじゃないでしょ。だからちょっとイタい主人公にしてるわけ。そこにモンクを言うのはダメよ。
 バイクもクルマも普通のビークル。空を飛んだり壁をぶち破ったり、ミサイルを発射したりしない。だって私立探偵なんだもん。
 猟奇殺人事件の謎を追っていくうちに、自分の父親の悪事が明らかになり、自分も犯人のターゲットであることを知るなんて、ミステリーの王道やん!
 ただ、真相を知った時のアルフレッドの言い訳はいらんかった。言い訳になってないし、しょーもない弁解をするくらいなら、「お父上だって魔がさすことはあるのです」でよかった。そうやって清濁合せ飲んで大人になればいいのだ。てか、このアルフレッドはあんまり好きじゃないな。父親役を引き受ける覚悟もなく、ただ戦い方だけを教え、強くなれと叱咤した罪は重い。そのせいで、こんなサイコな性格になっちゃったんだから。ウェイン家の執事にしては未熟で生臭い(元MI6らしい)。
 友人が全力で馬鹿にしてたのが、コウモリの檻に手を突っ込んで手紙を取り出すシーン。何をもたついてるのか。手紙くらいスッと取り出せと。なんの時間なんだこれは?とたいそうな剣幕だった。えーーっ、ぼくはなんか仕掛けがあるんじゃないかとヒヤヒヤしたのに。もしかしたら狂犬病ウィルスとかもってるのかもしれないしさ。確かにちょっと(ちょっとだよ)引っ張りすぎな気はしたけど、そんなに怒らなくても。
 「じゃあ、あれですか、ラストのキャットウーマンとバイクで抜いたり抜かれたりのイチャイチャ並走シーンもダメっすか?」と尋ねたところ、「さよならしたあとにそういうことをするから童貞なんだよ!」とこれまた怒られた。やれやれ、ハードボイルドはやせ我慢と、ひねくれたロマンティシズムが肝なのに。
 今どき、いい歳の大人がトレンチコート着て、やせ我慢したり、内にロマンを抱えてたりするのはクソダサい。そんなことはわかってる。だからこそ、半童貞の青年にソリッドな復讐心を抱かせてコスプレさせてるんだろう。そこが受け入れられないと、全部がしょーもない話になっちゃうから注意して。
 暴力による悪への復讐ーー暴力による正義の制裁ーー探偵と犯人で、やってることは結局おんなじってわかったところでうわああっ!そこに着地⁉︎ってなるんだけど、ヒーローとヴィランの魂が奇しくもニアなところにあるってのはおもしろい。リドラーはバットマンにてっきり共感してもらえると思ってたんだよね。ところが拒絶されたもんだから、ひどく狼狽し心底ガッカリしてた。だってバットマンは罰を与えるのに犠牲を出さないから。犠牲の有無が境界線ってよく練られてるわ。
 きっと市長の息子はブルースと急接近を果たし、相棒ロビンになるんだろう。ジム・ゴードンはなんだかバットマンと仲が良すぎるので、訛りの強いオハラ署長が間に入るかもしれない。ゴードンの娘バーバラがバットガールになってブルースと恋仲になることだってあり得るよな。ああ、楽しみ!

 見終わった瞬間にBlu-rayを買おうと決意した。国内版はバカ高いので輸入盤にする。オランダ盤はUHD、Blu-rayともに日本語吹替・字幕が収録される予定。
なべ

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