春とヒコーキ土岡哲朗

THE BATMAN-ザ・バットマンーの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

社会と犯罪者の関係をリアルに描いたサスペンス。

知っているバットマンのままなのに、見たことない映画。『ダークナイト』よりも暗いトーンで、犯罪者が発生する社会を見せるサスペンス・スリラー。
バットマンは自分を犯罪者にとっての「恐怖の象徴」にするためにコウモリの恰好をしているのは過去の映画でも同じだが、冒頭でホラー映画の怪物のように現れたバットマンが犯罪者を蹴散らし、助けられた市民もバットマンに殺されると思って命乞いをする。ここで、なんか今までのバットマン以上に暗いぞと分かる。

バットマン=犯罪を憎む一般道徳が煮えたぎったもの、復讐の化身。そいつがいかに狂いそうになりながら怒っているかを見せる映画だから、タイトルは『ザ・バットマン』。狂って犯罪者になってしまえばどれほど楽か。犯罪者を生み出す社会の腐った部分にも責任はある。だが、それで社会に攻撃するのではなく、社会をよりよくして皆が平和に暮らせるようにしたい。その実現を諦めて自分勝手に動く犯罪者たちに憤り、腐敗する社会を綺麗にする覚悟を一人背負う男。

リドラーの影響力。クイズを残すテロリスト・リドラーは、世間に認知されるアイコン力のあるバットマンを見て、彼を巻き込めば自分の存在もメディアに出ると確信した。自分を覆面の怪人としてアイコン化したのも、バットマンを見て学んだこと。バットマンが出るから、そんな犯罪者が出てきてしまう。これは『バットマン・ビギンズ』のラストでもバットマン自身がジョーカーの登場に対して同じようなことを言っていたが、それの意味が今作でようやく分かった。
また、リドラーは途中で逮捕されたきり脱獄はせず、彼不在でクライマックスを迎える。なんと、クライマックスで暴れるのはリドラー本人ではなく、リドラーに共感してテロを起こすシンパたち。本人を逮捕したところで、テロは終わらない。共感した者たちに犯罪が連鎖する恐怖を見せつけられた。
また、影響された人々が町で暴れ出すというところで、『ジョーカー』の続きのように見えた。この映画は『ジョーカー』とは世界線を共有していないが、見る側はその続きのようにクライマックスを見ることができる。

このシリーズの続編が観たい。ペンギンを主人公にしたスピンオフドラマが決定し、映画の続編も作るつもりのよう。アーカムでリドラーに話しかける謎の人物(新キャストでのジョーカー)もいる。監督はミスター・フリーズをリアルに描いて登場させることに興味があるようだ。何回も同じキャラクターをリブートしすぎなアメコミ実写化界隈だが、その中で良作との出会いもあることを思い出せた。