くりふ

バーニング・バードのくりふのレビュー・感想・評価

バーニング・バード(2016年製作の映画)
3.0
【銃後の母地獄】

東京FILMeX2016にて。

作中からはわかりませんでしたが、舞台は1989年とのこと。内戦中のスリランカの村で、父を民兵に拉致され、残された家族たち…子供8人と姑を抱える母・クスムの、地獄巡りのお話し。

前半辺りまでの、鋭利な空間の切り取り方、流し込まれる自然の美しさ、衝撃的な出来事を容赦なく見つめる視線…等、映像の求心力が物凄くて、一方それらを包み込むように、舞台の村を吹き抜ける風が大変心地よく、ずっと惹きつけられました。

が…お話が通俗的なものに堕ちてきて、段々飽きちゃいました。

スリランカ内戦への怒りが肝、らしいですが、一家の主を失くして母ちゃんが苦労するお話となっていて、事故死や病死でそうなる場合もあるわけで、これだと、内戦あまり関係ないんじゃないの?と思えてしまった。

また、クスムはどんどんセクハラ・パワハラまみれとなり、母から女に再度、仕立てられていきます。が、そのどん底へのおんな道をただ見せるだけでは、わざわざ映画にする意図って何か、わからなくなってくる。

そうした残酷描写を拒否したいのではなく、ただの羅列だと、ただうんざりしてしまう。所詮フィクションなのだから、要件は手際よくまとめてほしいものです。

憶測ですが、内戦は切り口に近く、スリランカ女性の扱われ方は、現在でもここで描かれたようなものだ、と伝えたかったのだろうか?普遍的になりつつあるそれへのアラートのような。

ただ、そうだとしても作中の情報だけからはわかりづらいですね。クスム役の女優さんにはお疲れ様賞を贈呈したいです。日本だと企画ものAV女優がやるような汚れ仕事をこなし、しかし下品にはなっていない。スゴイです。

こうしたアプローチで男の畜生ぶりを炙り出すやり方は、確かにアリだとは思いました。こういう映画が作られること自体で、スリランカにおける内戦のトラウマは、そうとうなものだったろう、ということはわかりました。…当然かとも思いますが。

<2016.11.30記>
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