映画が開始されてタイトルが流れるー『普通の家族』ー。そこから繰り広げられる「普通じゃない」感がすごい。
罵倒しあい、貶めあい、小突きあう少女ジェーンと少年アリエスの若いカップル。ジェーンは泣くのが仕事の赤ちゃんに泣くな!と脅し、橋から川へ投げるフリをする。ひき逃げ、万引き、ひったくり。いろいろと私の常識が追いつかない。
しかし観ていくうちに、少しずつ私の頭のピントが合ってくる。彼らの世界には、彼らなりの常識がある。彼らにとってはこれが「普通」なのだ。罵倒すらきっと愛の言葉なのだろう。
確かに彼らと私たちは生きる世界が違うかもしれない。しかし人間が根源的にもつ、子どもへの愛情は変わりない。脅しつけてたはずの息子を、ジェーンはそれこそ死に物狂いで探し回る。どんなに騙されても、人間の善意をどこかで彼女は信じているのかもしれない。
アリエスはジェーンに問う。「もし誘拐された息子が、お金持ちの家にいたらどうする?自分たちが与えてあげられない豊かな生活を、息子が送っていたら?」
ハッとさせられた。胸を突く問いだった。
刺激的で、パワフルで、チャレンジングな本作に心からの拍手を送りたい。