噛む力がまるでない

なっちゃんはまだ新宿の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

なっちゃんはまだ新宿(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 首藤凛が監督を務めた2017年の作品である。

 大雑把にいうとシスターフッドものだが、秋乃(池田夏美)がなっちゃん(菅本裕子)と理想的なシスターフッドで結ばれているわけではなく、嫉妬や執着などじめじめした感情が絡んでいるというのがポイントだ。このなんとなくピンとこないような秋乃の愛憎入り交じった心境が不思議とわかるわかる的な感じになっていて、十代で経験するようなもやもやした不合理なものを映像に落とし込めるのが首藤凛のセンスがあるところなのかなと思う(商業映画監督デビューの『ひらいて』でもそのへんは健在だった)。
 イマジナリーフレンドのようだったなっちゃんの存在は秋乃が大人になってからでも重くのしかかり、ついに現実の本人(?)と対面してしまうのだが、ちょっと面白いなと思ったのが、思い詰めた秋乃がなっちゃんと一緒に逃避行をすることである。秋乃が長年折り合いのつけられなかった感情との対決にこうしたアクションが入るのは意外だが、ここにきてシスターフッドの軌道が再び浮上し、秋乃の克服と解放につながっていく展開はとても良いと思った。ちょっとセンチメンタルなラストを見て、秋乃にとってなっちゃんとはいったい何だったのか、また、自分にもなっちゃんのような存在はいるような……そんなことを考えさせられる力作だ。

 そういうわけでなかなか見応えのある作品なのだが、一方でどうしても引っかかるところがある。ひとつめはこの映画の配給がSPOTTED PRODUCTIONSで、企画が直井卓俊だということだ。直井は『童貞。をプロデュース』での性的強要問題についていまだに責任ある説明がされていないので、クレジットで名前を見るのはものすごく居心地が悪かった。もうひとつ気になったのは細かいところだが、アフレコのシーンは映像とのミスマッチがすごい。撮影現場とアフレコで使っているマイクが全然違うのか、映ってる芝居と声の距離感に違和感があった(近接効果の問題なのかもしれない)。