半兵衛

白い汽船の半兵衛のレビュー・感想・評価

白い汽船(1976年製作の映画)
4.0
冒頭こそ主人公と祖父の楽しいやり取りで楽しめるが、すぐに子供の親に関する秘密が発覚するので嫌な予感がしたが正解であった。

小学校に行こうとしている前歯が欠けた可愛い主人公の子供ならではの妄想の世界に、彼をめぐる周囲の複雑な状況が折り重なり、やがて子供を育てるはずの大人たちのどす黒い思惑が圧迫し少年の精神を軋んでいく様が痛ましい。

主人公の妄想シーンはどれも幼稚園児レベルの他愛のないものだが、誰しもが子供の頃想像したことが多いので共感して楽しめる。中でも川にある岩を戦車だったらという妄想シーンは実際に岩が水中で戦車のように動かしているのが白眉。あと祖父が祖先が鹿に育てられたという昔話をするシーンは荘厳なスケールで映像化しており、生き残って川に流された赤ん坊を大鹿が拾って陸に向かうという『もののけ姫』っぽいシーンも実写で見事に再現している。

だからこそ後半鹿と一族の関係を誇りにしていた祖父と孫が、そうした伝説にも目をくれずひたすら現実をせせこましく生きている祖母や叔父によって片隅に追いやられていくのは見ていられなくなる。一見悪党に見える祖母や叔父も、実は複雑な事情を抱えていて生きていくために仕方なくしているというのがまた辛い。そしてそこから叔父たちが主人公の大事にしていた自然を破壊していく様は、まるで劇中の祖父や主人公のように自分のアイデンティティを徹底的に否定されているような感覚に陥る。「さらば愛しき大地」の根津甚八のように覚醒剤に手を出さず、「火まつり」の北大路欣也のように暴力で制裁できない無垢で善良、しかし無力な人間の苦しみや哀しみ。

絶望した子供が現実と空想の境目を漂うラストも印象的で、これを救いととるか崩壊ととるか見る人に委ねているところが絶妙。個人的には「救い」と思いたいのだけれど。
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