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愚か者の船のmhのレビュー・感想・評価

愚か者の船(1965年製作の映画)
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長距離の大型客船に乗り合わせたひとたちの群像劇。
舞台は1933年のメキシコ→キューバ→ドイツの定期便で、スタンリークレイマー監督作でオールスターキャストで、ヴィヴィアン・リーの遺作とステータス見てるだけでも楽しいのに、実際はもっと面白い。
第四の壁に向かって語りかける小人からスタート。メタ展開はラストにもう一回あるだけであとは、オーソドックスな群像劇形式。「グランドホテル」や「ショート・カッツ」みたく最後に一回だけ交差するのではなく、物語は頻繁に行き来する。
・ホロコーストの前奏みたいなくだり。後出しのセリフとは言え「百万人いるユダヤ人を皆殺しにするとでも?」がうまいし恐ろしい。
・反ユダヤ主義が理解できないアメリカ人に被せる「黒人をいじめるのに忙しかったんでしょ」も鮮やか。
いたずらざかりの子どものプロットをさらっと済ませるのもうまかった。彫刻家の難民の死をごまかすことに成功している。
Wikipediaによればヴィヴィアン・リーは肉体的にも精神的にもやばかったそうで、レイプ未遂のシーンには無関係だったにも関わらず、演じたリー・マービンを殴ったとのこと。
ジプシーの踊り子集団という設定ばかりではなく、本当に踊れることをたっぷり時間割いて示したり、大っぴらに客ひいたりしてるのが強かで良かった。
ラストの語りかけ「あなたには関係ない」は、冒頭の「あなたもこの船に乗っているかもしれません」にかかってる。芸術家から道具を取り上げたり、ユダヤ人を差別したりするのを、自分には関係ないと目をそらしていたのは、映画の登場人物ではなく、見ているわれわれのほうだったのだ。
ほんと、シナリオが素晴らしい。
面白かった!

ググったついでにメモっとく。
・メキシコ・ベラクルス→ドイツ・ブレーマーハーフェン間、26日の航海。
・途中キューバに立ち寄って難民を乗船させる。
・難民たちはキューバの独裁者ヘラルド・マチャドの命令で、スペインに強制送還中のスペイン人たち。
・ラ・コンデサ(シモーヌ・シニョレ)はキューバから移送されている裏切り者のドイツ人。ドイツに着いたら収監予定。
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