プリオ

ゲット・アウトのプリオのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
5.0
○静かな野獣のような映画だ。

そのあまりの完成度と不気味さにやられる。

なんとなく不気味で気持ち悪い感じだから、蓋をして見ない人もいるだろう。だが、それは黒人奴隷、インディアン殲滅させてきた西洋的感覚だ。

やはり、私たちは押さえつけずにこの映画を見届ける必要がある。そして、野獣の思いを受け止める必要がある。

勝手に恐怖を抱き、力でねじ伏せる。対話もなしに。受け止めもせず。それでは、何も変わらないのだ。色、育ち、国、年齢などは、その人を理解するのに確かに役立つ材料になる。だが、それが正しく理解するのを邪魔することもあるのだ。一旦、全部取っ払って、ゼロになって向き合おうではないか。

いや、単純に娯楽映画として一級品なので、難しいことは何も考えずに見れます。
だが、ただ楽しかったと終わるだけじゃ、この映画は勿体無いほど作り込まれているし、高いメッセージやテーマを読み取ることができる。 


○前提として、私は気持ち悪く不気味で見たこともない体験をさせてくれる映画が大好きだ。偶然にも、「ゲットアウト」はその条件を全てハイスコアでクリアしている作品だと言える。


○B級映画っぽい何処か見たことある密室サスペンスの感じは残しつつ、中身は全くそうではない。こんなストーリーよく思いつくなと唸ってしまう。
  
人種問題を教訓的に、道徳的に語る映画や本などは溢れている。だが、なかなか人種差別は無くならないのが現状だ。

そんな時に、ジョーダンピール監督は思いついたのだろう。真っ向から訴えかけてもダメだ。エンタメとして面白く、時にシリアスかつ不気味で、笑っていいのか笑っちゃいけないのか、そんな映画を作ろうと。その方が人々に考えさせる余白と、現実を見る目を養えるのではないのか。そこから現実は変わっていくかもしれない。そんなことを思って、今作を作ったのではないだろうか?(勝手なこと言ってます) 

映画には力がある。たくさんの人の感情を動かす。それは一時的かもしれないが、忘れられないものもある。

おそらく「ゲットアウト」は人々の脳裏に張り付いて離れない。人種差別と縁とゆかりがない私でさえ。  


○あえて起こっている現実とは逆の現実を描く手法が素敵だ。

タランティーノもよくやる手法だが、フィクションの世界だから描けることをやるのだ。それが次第に現実に介入したり、影響を与えることを信じて。

だから、ジョーダン監督の映画は三作品全て黒人が主人公なのだ。リアルでもフィクションでも、主人公とされてこなかった黒人。 


○最近、黒人を主人公にするのが流行している。ディズニー映画も黒人のプリンセス、実写版のアリエルも黒人、アカデミー賞受賞の条件にキャスト、テーマ共に人種の要件も設けられた。

それは差別を過剰に意識した、エンタメ作りのようにも感じられる。少し不自然なような。差別をなくそうと意識すればするほど、差別はあるものだと意識することにもつながる恐れがある。

今作でもそうだった。
白人が黒人を肯定する発言には、無意識に差別的意味合いを含んでいる。悪気のない発言かもしれないが、聞き手からすると違和感がある言動。それは悪意の自覚がない分、タチが悪い。

なら、どうやって差別をなくしていけばいいのか。それは今すぐ答えがでないわけだが、差別を過剰に意識するのはどこか違う気がする。

リトルマーメードの実写化の予告編が公開され、ヒロインであるアリエルが黒人だった。白人の女の子が泣き、黒人の女の子が泣いて喜び、賛否両論を巻き起こした。

個人的には、アニメのアリエルは白人だったんだから、実写版で無理に黒人にしなくてもいいような気はした。それはあまりにナチュラルではないような感じがしたのだ。過剰にマイノリティを持ち上げるムーブメントのように思うのだ。 





ーーーーー<ネタバレあり>ーーーーーー





○メタファー
・催眠術師のお母さん
催眠→洗脳
「黒人は悪、白人は善」「黒人が下、白人が上」といった洗脳じみた概念を作り出すもの

・カメラのフラッシュ
事実を切り取るもの
カメラは弱者の最強の武器 
移植前の自分(黒人としての自分)を思い出すもの

・品評会
黒人を動物、モノとして消費する社会 


○好きなシーン
・黒人の友達が、警察に助けを求めるシーン
黒人の警官が集まって話を聞くも、最終的に笑い飛ばされてしまう。これを白人の警官ではなく、黒人の警官にしたのは、ジョーダン節だと感じる。

そもそも、黒人も白人も関係ない。黒人だから、白人だから、と言って対応を変えるのでなく、その人自身を見る必要があるのだ。そんなことを遠回しに、伝えたいような気がした。

・恋人の豹変シーン
かなり怖い。彼女の首を絞められながら笑っている顔。あれは、どんな感情からくるものなんだろう。

・家政婦が笑いながら否定するシーン
映画歴史に残るシーンかと。あまりに強烈です。
笑いながら、否定しつつ、涙が出る
→本当の自分は、テレビを見ているかのように、現実には介入できない(沈んだ地)  

家政婦「誰の下でもない」
主人公「時々なるんだ。白人だらけで神経質に」
→下だと思ってしまうこの世界から「ゲットアウト」


○移植手術 
移植者→「君の体を動かすのは私」→白人、強者のされるがまま

それは、完全な死ではない(意識狭窄)。見えるし聞こえる。でも君はただの乗客だ。観客となる君の居場所は「沈んだ地」。

「沈んだ地」とは? 
現実を眺めておくことしかできない場所→そこから、「ゲットアウト」しろ(本作のテーマ)


○なぜ黒人が狙われる?
憧れ、強く、速く、クールになりたい
→黒人の時代

黒人は消えても大事にならない/両親がいないなどの環境要因
→マイノリティに厳しい世の中


○ストーリーの主軸
弱者が強者を倒す話 
黒人ー動物の逆襲(ノープに通じる)
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