KEKEKE

ゲット・アウトのKEKEKEのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
5.0
- 正真正銘の大大大傑作
- 構造的支配の裏にある人種問題のグロさを見事にホラーへと昇華した怪作

- 自分も含めて多くの日本人は他国の人種問題に対して全く知らないも同然で、何よりこの作品のメッセージは冒頭にガンビーノのRedboneが挿入されることからもおそらく同胞であるアフリカンアメリカンに対して向けられたもの(同時にジョーダンピールの出自に関するエクスキューズでもある?すごい!)

- 人種問題について取り上げた映画を観て他の民族について想いを巡らせる度に、私は彼らについて本質的に理解することの困難さを思い知る
- それは人種の違いによりもたらされた困難さではなく、共有している歴史の違いによる困難さだ

- そもそも人類はその身体に刻まれたDNAとそれに伴う遺伝学的性質を持ち、20万年前にアフリカ大陸で誕生してから数千世代もの交代を繰り返して別々の大陸に散らばった動物だ
- その地域毎の特性の差は人間が持つ認知能力による判断で人種という概念によって分割され、その後複雑多岐に渡る歴史の上に現在あるような問題が表出している

- つまり人種問題とは、同一の祖先を持つ人類が、その認知能力により自らが分類した種別のうち、特定の集団が経験した歴史の末に構築された構造的問題のことで、生物学的な要因が直接引き起こす問題ではない
- だから現在アフリカンアメリカンが抱えている人種問題の原因は、作中で非アフリカンアメリカンがしきりに口を揃えて言うように、彼らの遺伝的特性にあるのでは決してなく、人類が積み上げてきた歴史の中にこそあるのだ

- 日本人は自分達の民族のことを「兄弟」とは言わない、寧ろ私たちが結束できるのなんてSNSを見てれば明らかなように、差別、排斥、あとは鎖国をするときくらいだろう
- 彼らのフィストバンプに込められた仲間意識は結束しなければならなかった歴史の証左で、同じ空間を共有していない私たちが彼らのことを知るためには、本来膨大な歴史と当事者が置かれている状況を知る必要がある
- それを多くの人はスキップしてしまうから、人種問題を種族の問題/遺伝子の問題/肌の色の問題と、過剰にシンプルにしてしまう
- 以上を踏まえてジョーダンピールは、構造的人種差別の問題を前提にした文化盗用について描いた

- 人種差別が構造的に構築されるものだったのに対して、文化とは遺伝的特性により育まれるものだ
- それは民族がその優位性や地域性を活かし、連綿と続く世代交代の中で受け継ぎ練磨してきたもので、遺伝的特性とは切っても切り離せない営みだ
- そして文化盗用は、歴史が育み歪んだ支配構造の中で実行され、長い歳月をかけて培われたそれらを一瞬のうちに奪ってしまう
- かつて迫害の動機とされた遺伝的特性は資本主義の中で道具として利用され、そこで発生した富の多くはまた体制側に流れる
- 今作が描く、「白人による黒人の」文化盗用問題のポイントはそこにある

- ジョーダンピールは、構造的問題を遺伝的問題にすり替え何世紀にも渡って迫害してきた白人側が、今度は遺伝的優位性により培われた文化を搾取しさらに、それによって得た富で現在ある構造的問題をエンハンスし続けている現状を戯画化し、良質なホラー作品にまで昇華した
- 余りにもグロテスクすぎる構造をここまでのエンタメにできるその手腕は、本当に素晴らしいとしか言いようがない

- リスペクトしてるとかしてないとかの問題ではない、相手の文化を使おうとする時、その歴史と構造について知ることは、いつか岩をも砕く一滴になるかもしれない

- 差別を是正する過程で、被差別者の遺伝的特性を引き合いに出すことは、その問題を間違った認識で覆い隠してしまうだけで寧ろ害悪となってしまう
- この構造はアフリカンアメリカンの問題のみならずそこら中に散見されるもので、自分も心当たりがある

- ここから続く全ての作品に通じるポイントとして、音楽のセンスが本当にハンパない
- 限られた予算で作られた映画に音楽が与えるパワーはやはり無視できない
- チャイルディッシュガンビーノが戻ってきたら、また作中に使ってほしいと思う
- 続く2作がまだこれを越えられてない気がするのは少し悲しい
KEKEKE

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