曇天

ゲット・アウトの曇天のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.0
怖い予告で楽しみにしていた『ゲットアウト』、ようやく観れました。観終わってみるとお話自体に真新しさはない。とか観終わった直後は思ったけど、細かい事抜きにすれば素直に怖くて楽しめる逸品。ではこれから細かい事書きます。

スリラーの醍醐味はアイデア勝負で、予想を裏切り期待に応える展開で客を驚かせライドさせられるものが良い映画になれる。ホラージャンルでは特定の人が抱きがちな恐怖心から着想を得る。妊婦が子供を産む恐怖を描いた『ローズマリーの赤ちゃん』、娘がグレて暴言を吐く恐怖を描いた『エクソシスト』。そんな中今回は黒人ホラー、黒人が抱きがちな恐怖心を増幅させたような形で展開していく。

真相はかなり怖い。きちんと本人達にとって真っ当な理由で黒人を陵辱せんと向かってくるから怖い。その真相は若干既視感があるのだが、本作の怖さを担保するのは俳優達の不穏な演技と演出で、それを見れるだけでも価値がある。観ていて思い出したのは同じ人間の怖さを描いた『ドントブリーズ』だけど、そっちは序盤から緊張しっぱなしだったのに対して、本作は主人公を安心させるため本性が隠されていて登場人物達の微妙な表情の変化や歪さを楽しむことができる。それに呼応して序盤は観客側も不思議と、安心していいのかなと気を許してしまう。個人的には主役の、あのどんな状況も呑み込んでしまいそうな余裕の表情に一番安心させられた。

結局あの集団の中で写真を撮られた黒人がキレるシーンもあれ以上の深い意味はないまま、というかあれがどういう感情だったのかわからないまま終わるんだけど、あの感情が「恥ずかしい」であると思わせる予告自体は上手い。今や牧歌的風景の中で白人の使用人だったりいいように使われる立場でいるのは歴史の一部になり、世代が離れた今の黒人の若者には実感が伴わない。だから「怒り」ではなく「不気味さ」が湧いてきてホラーとして成立するんだろう。写真を撮られた黒人と年寄りの夫婦もごっこ遊びのような滑稽な姿から「恥ずかしさ」に繋がる。
ただ真相との兼ね合いで少しモヤモヤするが、細かい事である。気になるのはあくまで辻褄であって真相自体は自分の好きなジャンルだった。実際予想を軽く超えてくれた。あれくらいやってくれれば映画館を出た後、周りを歩いている人が怖く見えて疑心暗鬼になれるというもの。まあ一番の驚きは監督脚本が『キアヌ』の人だってことかも…
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