笹井ヨシキ

ゲット・アウトの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ずっと気になっていた作品だったので鑑賞して参りました。

面白かった!

公明正大に差別的な発言が許されなくなった現代においても、基本的になくならず何処かで静かにくすぶり続ける異人種への特殊視を映画全体に緻密に織り込れており、積み上げられる違和感や居心地の悪さが滑稽なほどの狂気に変わる展開には恐怖とユーモアがナランス良くブレンドされていて、気負いなく楽しめるエンターテイメントだと思いました。

題材としては黒人差別を扱っている今作ですが、厳密には差別感情を蔑視ではなくむしろ憧れや嫉妬からくる感情であると解釈しているのが面白いですよね。

リベラルを自称し一見多様性を重んじているかのように振る舞う彼らの欺瞞や、潜在的には自分たちが主導権を握ろうとしている不快さが、アーミテージ家の人々の言動一つ一つに隠れていて見応えがあります。

老い先短い白人たちが黒人を次に自分が乗っ取る肉体として商品価値しか見出しておらず、クリスという人間についてはまるで興味がない。

それは「社会的公正を重んじる」というポーズだけをして実は当事者一人一人のことなんかまるで考えていないコスプレリベラリストを揶揄しており、そういう人々は自分が害悪だとも思っていないから厄介であり、だから差別は根深くなくならないと主張しているようでもありました。

白人から黒人への嫉妬だけでなく、老い先短い老人たちの若さへの未練や、自分たちの価値観が淘汰されていくことの恐れと足掻きを描いているのも巧いですよね。

この辺りは白人黒人に限らず多かれ少なかれ誰もが直面する普遍的な問題で、それまで自分の信じてきた価値観は時代の流れと共に消え去る、または否定されるということが起きた時に、自分だったらどういう行動をとるのか。
今作のような浅ましき老人たちの姿も一つであり、それまで自身が時代と共に培ってきた強固な保守的思想を何とか残そうとするのも否定できないと思いました。

役者陣の演技も素晴らしいですよね。

二つの精神が自分の中でせめぎ合っていることを表現しなければならないという非常に難しい役どころをジョージーナ役のベティ・ガブリエルは怪演しており素晴らしかったですね。
笑いたくもないのに笑うせいで涙が出るヤバさは今作白眉の名シーンだったと思います。

ちょっとやり過ぎ感のあるロッドのコメディリリーフっぷりも笑いましたw
リル・レル・ハウリーという人の愛すべきボンクラ感、警察に相談に行き笑いものにされたりローズに誘惑された時のライトな感情むき出し演技は爆笑させられましたw
「催眠術ってやべぇ」「警察ふざけんな!」「あの女、すげぇ!」とか見事に観客の気持ちを代弁してくれてましたねw(ちょっと素直すぎる気もするけどw)

ローズ役のアリソン・ウィリアムズも可愛かったし、「バリー・シール」にも出ていたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの一発でクズとわかる感じ(褒めてますw)も良かったです。

あえて言うなら、ジョージーナのアシストがあったとはいえローズが部屋の靴箱にそれまでのターゲットの写真を隠していたといのは若干腋が甘いようにも感じてしまいましたね。
まああの後クリスはあっさり捕まったし、それも計算ずくだったのかもしれませんが。

クリスが綿を耳に詰めて催眠を防ぐというのも、両手を縛られている状態でどうやって両耳に綿を詰めたのか、細かいかもしれないけど具体的な描写がないので気になったり、そもそも見張りつけんのかい!と思ったりもしました。

終盤は話を畳むために雑になった印象も否めなくて、それまで完璧だったアーミテージ一家がボロを出しまくるのは若干トーンダウンしてしまった感はなくはなかったです。
まあそれでも首絞めのくだりやフラッシュなど伏線をきっちり回収している辺りはやっぱり巧いんですけどね。

今現在も根強く蔓延る差別の問題を鋭く描き、それでいてジワジワと違和感が恐怖に醸成していく感じを味わえて、ロッドがドタバタとサポートする姿に笑える、極めて同時代的なエンターテイメントだと思いました。
ジョーダン・ピール監督にはこれから注目していこうと思います。
笹井ヨシキ

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