幽斎

ゲット・アウトの幽斎のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
5.0
私の好きな「ミステリー(スリラー)」は、ジャンル的には肩身が狭い。アカデミーに係る事は滅多に無く、親戚の「ホラー」は低予算でも大ヒットをカッと飛ばすので正直羨ましい。しかし、最近は年に1本のペースで注目作が有る、2017年は本作、2018年は「クワイエット・プレイス」。本作は完璧な完成度を誇る「スリー・ビルボード」、作品賞に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」を抑え、オスカー脚本賞を受賞した。出来としては「スリー」の方が上だと思うが受賞は嬉しい。

冒頭で閑静な住宅街を歩いてる黒人が、仮面を被った何者かに襲撃される、そして何事も無かったかの様に始まる本編、この時点で只者で無いなと感じましたが、案の定最後に主人公が脱出する時に、乗る車が冒頭の車と同じ、御丁寧に助手席に仮面と思しきモノまで有る。本作は物語を暗示する階層的なキーワードが実に多い。それをコメディが主戦場だったJordan Peele監督が自身で脚本し、スリラーとホラーとコメディの三位一体を絶妙なブレンドで描く。決してインテリぶったサスペンスで終わらせない点が極めて独創的だ。

パーティーのシーン。集まった人は赤いアイテム、主人公は青い服、これは政党の色とリンクする。赤は共和党、保守的な白人層が主な支持者。青は民主党、黒人や貧困層に支持者が多い。トランプ大統領も赤いネクタイが多い。余談ですが安倍首相の勝負ネクタイは黄色、山口県=長州藩=戦国大名毛利家、毛利家の旗印は黄色で有る。

唐突に出てくる「鹿」も意味が有る。最初の鹿は生きて直ぐ死にました。2回目は剥製でした。3回目は父親を殺す時。これは主人公が辿る末路を順番に暗喩してる、生きていたモノが作り物と成り、創造主を抹殺する。動物で黒人の叫びにも似た慟哭を表す、良く出来たメタファーです。

一緒に観た友人は冒頭のシーンで「なんで彼が運転しないで彼女が運転するんだろう、家が遠いからかな?」と言ってました。お客さん、いい読みです(笑)。良く出来たスリラーほど、冒頭に大きな伏線が有る、私も物凄い違和感を感じました。事故が起きて怪我をしたら(使い物に為らない)、また1からやり直しだから。他にも催眠術を掛けるのが、黒人を表すような「コーヒー」ではなく、なぜエレガントなイメージの「紅茶」なのか?など、お話は尽きません。

黒人が虐げられてきた歴史の負の遺産が数多く散りばめられてる、黒人監督だからこそ出来た、だからこそ世界の人々に見て欲しい、用意周到に描かれた極上のスリラーです。
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