荊冠

ゲット・アウトの荊冠のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.0
近年名前を聞くようになったブラムハウス作品を見るのは初めてかも。
ここで描かれているのは「黒人に差別意識を持つ白人による人権侵害行為」ではなく「黒人に憧憬を持つ白人による人権侵害行為」であり、「リベラルを自称しながらかえってレイシズムを助長している」白人への批判と読み取ることも可能であるように思えた。
冒頭の鹿を轢き殺すシーンが何を暗喩しているのかその真意が分からなかったのだが、鹿(Deer)は英語圏のスラングで「彼女を作ろうとして失敗した男」を意味することがあり、また鹿の種名・ブラックバック(Black Buck)は英語圏では「粗暴で白人女性を襲う(と偏見を持たれている)黒人男性」というスラングでもあるらしく、それが白人女性に殺されるというのは、クリスの未来を暗示したり、人種差別への強烈な非難を意味するように思えた。
また生贄になった黒人たちがカメラのフラッシュによって一瞬正気に戻る理由が分からず、「クリスと違って彼らは催眠術の際に強烈な光を浴びせられていたのかな?」などと呑気な想像をしていた。しかし調べてみると、2014年、黒人男性が白人警官の違法な暴力によって殺されるという事件が起こった際に、通行人がスマートフォンで撮影した写真や動画が警官の有罪判決の重要証拠になったという顛末があったそうで。以来、白人に有利になりがちな社会判決に対して、それまでにも増してスマートフォンの撮影記録が重要視されるようになったという。それをふまえると、本作の「スマホによる撮影」とは、白人の黒人差別から来る暴力への抗議ともとれるワケである。
調べなければ気が付かなかったこうした数々のメタファを知って、はじめて僕たちは本作の真のテーマを叩き付けられる。黒人差別問題が身近にない我々は、「自身に差別意識はない」と過信していなかったか。本作のこうしたメタファに気が付けなかった僕は、「無知」という怠惰のもとに差別を黙認している、結局は差別を助長している側だ。
ラストはもともとクリスが白人警官に逮捕されるという皮肉な結末が計画されていたそうだが、本作の製作開始までにアメリカ国内で黒人差別的事件が相次ぎ、あえてラストをこのような一件落着的エンドに変更したという。
あと、黒人音楽を意識し、ブルースとスワヒリ語を前面に打ち出したというBGMが、何とも形容しがたい心地よさと不気味さに満ちていて非常に良かった。
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