映画スニーカー図鑑

キックスの映画スニーカー図鑑のレビュー・感想・評価

キックス(2016年製作の映画)
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Nike Air Jordan 1 bred (主人公:ブランドンが着用)
その他、多数のJordanが登場

親友2人とうだつの上がらない日々を過ごしていた15歳のブランドン(ジャキング・ギロリー)は、貧しい家庭環境と小さな体格から周囲に軽んじられていた。ひょんなことから憧れのスニーカーを手に入れ、自信を持てるようになったブランドンの日常は瞬く間に好転していったものの、靴は地元のチンピラたちに呆気なく強奪されてしまう。取り戻すべく、ブランドンは周囲の制止を振り切り行動に出るが......

 スニーカーヘッズの間では話題になった本作だが、本編は決してNIKEの2時間CMのようなものではなく、至って真面目な反暴力のメッセージを掲げた青春フッド・ムービーだ。大麻とサイドショーぐらいしか娯楽がないLA郊外の街(オークランドのイースト・ベイエイリア)のマッチョな閉塞感から、ブランドンがたびたび駆られる宇宙飛行士のイメージは非常にアイコニック。何かの魔法にだって縋りたくなってしまう程に「ここではない何処かへ逃れたい」と願ってしまう、疎外感と劣等感に苛まれた15歳の感情を表した秀逸な演出だ(ポスターデザインが最高にカッコいい!)。
 とは言いつつ、本作で最も強烈な画で映し出されるのはスニーカーでも宇宙飛行士でもない。中盤、ブランドンがマハーシャラ・アリ演じるギャングスタな叔父(スパイダーバースとほぼ同じ役だし、名前も似てる)の家を訪ねた際、ベッドの上に置かれた拳銃と、そのすぐ隣に寝かされた赤ん坊を見つけるシーン。彼の街ではどれだけ暴力が間近で、根深く、逃れられないものなのかを一目で伝えてくる、強烈なカットだ。
 スパイク・リーのCMの有名なフレーズ:「きっと、靴のせいだ」然り、スニーカーヘッズにとってレアなスニーカーには、パワーやリスペクトを集める魔法がある。しかしながら、『AIR/エア(2023)』のような近年のNIKE非公認の“スニーカー映画”たちは、劇中で「靴は単なる靴だ」と、スニーカー映画への脱構築のようにキッパリ断る点で共通していて、本作の場合は”魔法“自体のそもそもの存在意義、即ち、クールに見られようとすることや恐れられることといったマチズモよりも遥かに守るべき大切なものを主人公が再確認し、選択することに青春映画としての成長ドラマを置いている。
それにしたって、やっぱAJ1はカッケェよな。

衣装デザイン:Brenda Moreno
登場・コラボ:登場のみ (日本公開当時の一部劇場では、入場者プレゼントにタイトルロゴが入ったシューレースを配っていたらしい)