ポルりん

大殺陣のポルりんのレビュー・感想・評価

大殺陣(1964年製作の映画)
3.7
群衆が雲霞のごとく斬り合うさまを、余すことなく描いた集団時代劇。

■ 概要

江戸時代史の謎である甲府宰相怪死事件の真相を描く、スリルと興奮のサスペンス時代劇。
『十三人の刺客』の工藤栄一監督・池上金男脚本コンビによる作品で、ギラギラした太陽のもと、泥と血にまみれた生々しい殺陣が展開される。


■ あらすじ

『大老の酒井は五代将軍に自分の思い通りとなる綱重を立てて、天下を我が物にしようとしていた。
これに怒った軍学者・山鹿素行は仲間と組んで綱重暗殺計画を企てる……。』


■ 感想

本作は、監督:工藤栄一と脚本家:池宮彰一郎のコンビが製作した「十三人の刺客」が好評を受けた為、再びタックを組んで製作された集団時代劇である。

「十三人の刺客」ではリーダーの指揮下に集められた、殺しのエキスパート集団であったが、本作は設定や展開が随分と異なっている。

まず、「十三人の刺客」ではターゲットを暗殺しようと、全員が一致団結して行動していた。
しかし本作の場合、



星野友之丞:暗殺部隊を率いるリーダー。
      何から何までリーダーに向いていない。
      優しい妻と可愛らしい3人の幼子がいるが、家族がいては決心が揺らぐといった自分勝手な考えから、家族全員を刺し殺す。
      (微笑ましい家族団らんのシーンから、次のカットで血まみれの家族の死骸が映し出されるシーンは、かなりの衝撃。)


日下仙之助:脳みそが頭ではなく肉棒についてるハゲ。
      決行の直前、突如メンバーの紅一点に発情し、レイプしようとする。
      当然のように拒絶されるが、逆ギレし紅一点を絞め殺す。
      うんこに沸いたバクテリアのような存在。


など、本作の暗殺部隊はクズ率が高く、内ゲバまがいの殺し合いも発生している。
とてもじゃないが一致団結とは程遠くなっている。
正直、クズ率が高いという事もあり、暗殺部隊に対し、あまり感情移入出来ないのだが、ターゲットの綱重が特に悪人という訳ではないので、尚の事、感情移入しにくい。
唯一、神保平四郎(主人公)は、理不尽に妻を殺されたという事もあり感情移入しやすいのだが、他のキャラクターが余りにも濃く、活躍の場もほとんどない為、暗殺部隊の中で限りなく存在が薄くなっている。
個人的には、もう少し神保平四郎を中心に描き、暗殺部隊に流されるだけではなく、主体性をしっかりと持ったキャラクターにして欲しかった。


また、殺しのエキスパート集団が活躍する「十三人の刺客」に対し、本作は全員が全員、とても暗殺に向いていなさそうな素人集団となっている。
物語中盤付近で、暗殺部隊に裏切者が出てきて、その男を粛正しようとするのだが、ろくに人を斬った事がない素人なので、致命傷を与えられない状態で逃げられてしまう。
このような事から、当然メインの暗殺もあまり上手くいかない。
本来の計画では、


江戸にやってくる綱重一行を吉原に追い込む。

大門を閉めて一行を閉じ込める

焦っている所を暗殺部隊が一気に襲い、殲滅する。


といった手筈になっていたが、綱重一行はドブ川へと逃げられてしまう。
以降は、泥濘に塗れた型もへったくれも無い、敵味方の区別がつかないような乱戦が始まる。
一見すると何が起きているか分からないような乱戦なのだが、


・超望遠レンズを使った俯瞰撮影

・ハンディカメラの揺れる画

・ターゲットを斬ることに対する執念が伝わる演技力

・侍たちの阿鼻叫喚の声と共に流れる「ワッショイ、ワッショイ」といった掛け声や怒号。(この声は、学生連のデモ隊が発した本物の音を使ったらしい)


などが、異様な迫力のある映像を映し出し、視聴者に鬼気迫る緊張感や興奮を生み出している。
クライマックスの殺陣シーンに関しては「十三人の刺客」に勝るとも劣らないほど素晴らしい。、


演出もさることながら、脚本もよく練られており、ナチュラルに闘争の虚しさを感じさせられるように仕上げられている。
今現在、本作を鑑賞して、連合赤軍が起こした山岳ベース事件をイメージした人は少なくないはずだ(事件は公開から7年後だけど)。
また、導入部分からは想像できない、意外性のある結末も、本作の見所の一つである。

暗く救いのない陰々滅々とした「十三人の刺客」を鑑賞したい人には、おススメの作品である。



最後に、本作のラストシーンが深作欣二監督「柳生一族の陰謀」のラストに似ている事から、一部では深作欣二監督が本作のラストをオマージュしたのではないかと囁かれているが、それは違う。
一坂太郎著「フカサクを観よ」に依ると、どうやら萬屋錦之介の


萬屋錦之介「夢じゃ!夢じゃ!夢でござーる!!!」


といった狂言じみたセリフ回しに深作欣二監督は初めOKを出さなかったようだ。
それに対して癇に障ったのか、萬屋錦之介は


萬屋錦之介「夢じゃ・・・夢じゃ・・・夢でござる・・・(小声)。」


と、それ以降何度撮り直しても、ぼそぼそと小声で繰り返すのみ。
根負けした深作欣二監督が仕方なく最初のカットを使用したという事だ。


ついでに「柳生一族の陰謀」では、大勢のキャストの中で、萬屋錦之介だけが時代がかったセリフ回しをしているが、山根貞男著「映画監督 深作欣二」に依ると、


深作欣二「錦之介さん、もう少し現代劇の方に近づけるやり方はないんですかね??」


と注文をつけたら、


萬屋錦之介「私はこれでやらせていただきます。ほかの方の事は知りません。」


という事から、萬屋錦之介の好きにやらせるしかなかったらしい。
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