櫻

女の中にいる他人の櫻のレビュー・感想・評価

女の中にいる他人(1966年製作の映画)
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本作において誰が犯人か(表情見てれば誰がやったかわかるし)ということよりも、人間の脆さや弱さとかいちばん近しい他人としての夫婦がどう共に生きていくべきかの方を注視していた方がいいのではなかろうか。たとえば、ひとりの人間が日常と非日常の細い線をこえてしまったが故に、その脳内で繰り広げられる数多の葛藤。自分の犯したことがバレてしまうのではないかとひやひやしながら平常をよそおい、日々をやり過ごすその危うさ。その線をこえてしまうのは何も狂人だからではなく、普通とされる人間が悪夢を見るような別の人格に支配されるような、ほんの一瞬によるものなのだと思う。だからこそ、我にかえった後ひとりでは抱えていられなくなる。それでなくても、饒舌に語られる心情描写をもってしても、理解するにおよばない領域というのが、ひとりの人間にはある。わたしからはあなたのことをこちら一方からしか見つめることができないし、他の誰かからのあなたを知るためにはひとりよがりの想像の域をこえていかない。ありのままも、あなたのすべても、どれだけ近くによってみてもわかりやしないのだ。もしも愛しているその人の恐ろしい部分を知ってしまったら果たしてどうするだろう。
櫻