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女の中にいる他人のBONのレビュー・感想・評価

女の中にいる他人(1966年製作の映画)
4.2
ある出来事を生活の一コマの中にごくありふれたこととして描き、人間の愛も、脆さも恐ろしさも、境界線の曖昧さを自然にグロテスクに描いた逸品。

長い付き合いのある2組の夫婦のうち、1人の妻が何者かに絞殺され、殺された妻の夫よりも何故かもう一方の夫がみるみる神経衰弱していくがその真相は…というような成瀬監督では珍しい心理サスペンスもの。

実際は誰が殺したのかはどうでもよく、人間の葛藤を罪悪感で推し量り、死んだタマをぶら下げた男の稚拙さと、女の狂気にも近い強さを炙り出す白昼夢。

フィルムノワールのような雰囲気に加え、一姫一太郎の幼い子どもたちと、一言多い姑との5人で暮らす穏やかなホームドラマのような要素が混ざり奇妙な優しさが恐ろしかった。

窓から見える木漏れ日や、海の水面が反射する光の粒、ぽっかりと開いた暗いトンネル、荒いモノクロームがみずみずしく、時に背筋がゾッとするような不穏さが映像美の奥に見え隠れする。特に顔のクローズアップ。

快楽に身を委ねてしまった人も、秘密を告白しても鬱憤したままで、どうしても赦しを得たい人も、今の生活を守りたい人も、みんな独りよがりの一面が出すぎてしまった末路。よく見知った人や一番近しい人のことも、自分の事ですら見えているようで見えないのが人間で複雑ないきものだなと思った。
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