シンタロー

女の中にいる他人のシンタローのレビュー・感想・評価

女の中にいる他人(1966年製作の映画)
4.0
成瀬巳喜男監督×小林桂樹&新珠三千代主演による心理ドラマ。田代は、妻・雅子、息子、娘、母親と平凡に暮らすサラリーマン。20年来の親友・杉本は、赤坂で田代が飲んでいるのを見かけ、合流する。田代はなぜか顔色が悪い。その近くで杉本の妻・さゆりが何者かに絞殺される。昔水商売をしていたさゆりには男友達が多く、誰と一緒にいたのか、わからないまま葬儀を終える。杉本は、葬儀に出席していたさゆりの友人から、田代とさゆりが密会しているのを見た、と聞かされるが、全く信じない。一方、田代は依然として体調が優れない。停電のある夜、ついに抱えていた"秘密"を雅子に打ち明ける…。
女性映画の名匠として、高峰秀子との名コンビで多くの作品を撮ってきた成瀬監督としては異色作。素晴らしいのは、2度に渡る田代の"告白"シーン。最初の"告白"は、大雨、雷、停電、蝋燭を灯す雅子…雷と蝋燭のみの光が何ともスリリング。流れる音楽も緊張感を煽る。演者の芝居も見事。2度目の"告白"シーンは、のどかなロケーションと音楽、トンネルの中で全ての音が消える、雅子の驚愕の顔、トラックのクラクション…という一連の演出がかっこいい。緊迫感の音楽に変わり、旅館へ、そしてエロティックなフラッシュバックの展開もすごい。
この"告白"までの、田代の苦悩と葛藤が丁寧に描かれる前半も見応えありますが、映画の本質は寧ろ後半。罪を告白し、罰を受けようとする田代の行いを消し去ろうとする、雅子の強烈なエゴイズム。大切なのは真実ではなく、家庭や子供、将来や世間体。そんな性根が浮き彫りになってくる、"女の中にいる他人"。あまりにも残酷な決着のつけ方が衝撃的ですが、それもなぜか美しく映る見事な演出でした。林光の音楽は全編通して素晴らしかったです。
成瀬作品常連の小林桂樹。コメディからシリアス、主役から脇役まで幅広くこなせる技巧派。社長シリーズや、TVドラマの印象が強かったのですが、さすがお芝居上手です。告白して自分だけ楽になろうとする感じには腹立ったけど。ヒロインは高峰秀子でも司葉子でもなく、新珠三千代です。どうしてなのか観て納得。成瀬監督が殺人やノワールって時点で異色なわけで、美しくも恐ろしい、蝋人形みたいなアップに耐えられるのはこの方くらいでは。共演が多い小林との相性も素晴らしかったです。あまり芝居は感心したことなかった三橋達也が、本作ではなかなか良いです。1番の被害者なのに立派な振る舞いを見せる杉本を好演しています。出番は少ないものの、若林映子と草笛光子が印象的な芝居、存在感を見せています。
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