nt708

女の中にいる他人のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

女の中にいる他人(1966年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

成瀬好きが高じて遂にMasterworksが入ったDVD Boxを買ってしまった。本作はその中の一作、まだ観たことのない作品。この作品を観て真っ先に感じたのは、本作が今までの成瀬の得意な演出を基にしながら、特に物語や題材の点で新たな試みをしているという点である。

まず女性を物語の中心に据えることが多かった成瀬映画の中で、本作の中心は基本的に勲だった。彼が妻に罪を告白するシーンからは徐々に雅子が田代の言動に強い影響を与え始め、最後には自らが物語の中心となる。まるでLady Macbethを思わせる女性の恐ろしさを一連の変化から感じることができるのである。

さらに、さゆりの死体や酒に酔った勲(このとき彼は精神的にも参っていたのだろう。自分が首を絞めた記憶がフラッシュバックして気分がわるくなったとも解釈できる)が洗面台に吐く様子が直接映し出されるのは、慎ましい演出が特徴的な成瀬には珍しい演出である。その反面、勲が罪を告白するトンネルのシークエンスや花火をバックに雅子が勲を劇薬で殺すシークエンスは、状況を写すことなく描き切っていることに彼の実力の高さを感じる。私は彼のこういうところが大好きなのだ。

全体的に異色な本作も成瀬好きの私にとっては十分楽しませてもらったし、いろいろと勉強になった。これからDVD Boxの未観賞の作品をひとつずつ丁寧に観ていこうと思う。
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