Kaji

愛を歌う花のKajiのレビュー・感想・評価

愛を歌う花(2016年製作の映画)
3.6
日帝強占期、作曲家のミューズとなった妓生と自分こそがミューズになれると思っていた妓生二人。
悲恋を主体にしながら、当時の時勢や芸能を志した女性の姿を描いた作品。

妓生とは宴席で歌や踊りを披露し接待する女性たちの事だが、近代化と植民地化という時代背景の元、社会的立場が最も弱かった人々なのではないか。
本編の中では、日本の警察上層部の妾になりその人物の名前を武器にするシーンもあるが、そこに性的搾取があったことは言うまでもない。


チョンウヒとハンヒョジュ、ユヨンソクのアンサンブルはバランスが良かった。

鬱屈と嫉妬に苛まれながら近しい人を失くす悲しみが髪の一本一本まで浸透しているような、いつも目をうるうるさせているハンヒョジュの透明感は目を見張るし、チョンウヒのにっと笑う笑顔の弾ける感じ、遠慮と才能の開花を往復する繊細な表情変化から友の裏切りに静かに怒る強張った声までスペクトラムが広い演技がほんとにうまい。二人とも歌も良かった。

その二人の間で、朝鮮の心の歌を労働者へ届く聴かせたいと志す作曲家ユヨンソクは、朝鮮時代の両班家系を匂わせるインテリジェンスをかもす。
 お前がしっかりしてりゃあ二人とも幸せにできたやないかと神さまになって怒りたいが、ただ、日本強占期に於いて、検閲で表現の自由を奪われていたことが悲劇の根源。
その国に生まれたからその国や人、風景を愛す、っていう自然で真っ当な愛国心すら犯罪にできてしまう凶悪な体制で表現者たちが苦しんでいたことを置いといて、ロマンスの不均衡だけあれこれ言うのはこの映画の意図を傷つけてしまう。


ラストは少し蛇足だったかなとも思うけど、普通に一般人として暮らす老女にこんな人生があったのかもね、と見せるのはとても大事な事だと思う。

最後のシークエンスで回想される韓服姿で跳ねる少女たちは多幸感に溢れ、風で優雅になびくチョゴリの美しさとこれからこの少女たちが経験する悲劇を思うと、戦争を知らず、日本から観ていることの罪悪感が走った。
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