笹井ヨシキ

カーズ/クロスロードの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

カーズ/クロスロード(2017年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ピクサー最新作で「カーズ」の三作目ということで鑑賞して参りました。

一作目の「カーズ」はスピード志向効率主義、または結果主義の世の中において、そこから取り残された町やリタイヤした人々に暖かな視線を向け、本当の豊かさとは何かを改めて考えさせてくれる傑作で大好きな作品でした。

今作はそんな一作目のスピリットを更に突き詰め、主人公のマックイーン自身が「取り残される存在」となる中で、自身のアイデンティティを見つめ直し残りの人生をどう生きていくのかを模索していくミドルエイジクライシスものとしてこれ以上ないくらいにしっかり描き切っていてとても面白かったです!

かつては新進気鋭のレーサーであったマックイーンも今やベテランとなり、最新のテクノロジーを駆使した「スピード志向効率主義」の新世代レーサーたちの台頭によりその立場を危ぶまれ、焦りと屈辱感から無茶な走りを敢行したため、大事故を起こしてしまいます。

マックイーンにとってレーシングカーというアイデンティティを喪失するということは自らが空っぽになり忘れ去られていくのではないかという不安や恐怖であり、自分を肯定していた重要なアイデンティティが失われる際に伴う痛みというのは誰しも経験したことのあることだと思います。

再起をかけトレーニングを開始したマックイーンが、思うようにいかず「どこを直せばいいかわからない」と苦心惨憺する姿には車のキャラクターとは思えないほどのリアルな葛藤がありました。

しかしそこから彼を救ったのは師匠のバドの生き様であり、トーマスビル・スピードウェイでかつての武勇伝や自分に対する思いを聞かされることで、レーシングカーというアイデンティティは自分を構成するほんの一要素でしかないと気が付くわけですよね。

今の自分と同じ状況にいたはずで、もうこの世には存在していないはずのバドがたくさんの車たちに愛され、マックイーン自身の中にも大きな存在として生き続いていることに気づいた彼の中で何かが変わり始めます。

レーシングカーとしての夢に破れたラミレスと行った「ファイヤーボール・ビーチ」での特訓や、「サンダーボール・スピードウェイ」での荒々しいレース、そして「トーマスビル」でのトラクターや暗闇での特訓、そこで得た自分の新たなアイデンティティに気づき始めるんですよね。

「フロリダ500」の前に行った最後の調整ではレーシングカーのマックイーンにとっては残酷な結果が提示されるわけですが、目の前を走り続けゴールしてはしゃぐ黄色い車に新たな希望を見出したのは自分だけではなかったと思います。

「フロリダ500」でのマックイーンの決断には自分のアイデンティティを手放す喪失感や後悔は一切なく、ラミレスという新たな希望が成長してレースの楽しさを伝えていってくれるワクワク感や喜びに満ちていました。

今まで自分を支えてくれた人や時代を築いていってくれた人たちへのリスペクトを忘れなければ、人生の岐路に経ったとき新たな道を示してくれる。第二の人生を歩み再び自分を成長させてくれる期待感に満ちていて、とてもアメリカ映画らしいカタルシスが溢れている作品だと思いました。

細かいシーンにも一々催涙ポイントがあって、特にスポンサーであったラスティーズ兄弟との別れは予想だにしない泣きポイントでしたね。
「また一緒にやりたかった」と別れを惜しむマックイーンでしたが、彼らも第二の人生を歩むため、またマックイーンを応援するために決断した選択であり、キャラクターが時間と共に生きていると感じました。

あと褒めるべきところとして、日本の宣伝も今作はとても良かったと思います。
邦題の「クロスロード」というのは人生の岐路ともかかっているし、バドとマックイーン、マックイーンとラミレスの生き方がクロスし継承されていく感じも出ているし、「サンダーボール・スピードウェイ」での八の字のコースともかかっている。奥田民生さんのEDテーマも超カッコよくて、いつもやらかしがちな(特に「インサイド・ヘッド」の時とかw)ピクサーの映画宣伝とは雲泥の差でとても好感が持てました。

だから最高に好きな映画なのですが、言いたいこともなくはなくて一番は悪役の扱いですかね。

というか今作はわざわざヴィランという存在は立てる必要なかったと思うんですよ。
最後の最後で何故か悪者にされてしまうスターリングは実際そんなに悪いやつじゃないですよね。
マックイーンの大ファンですごく愛に溢れた展示場も作っていたし、マックイーンを広告塔にしようとしていたのも単なる金儲けだけではなく、本当にマックイーンが好きだからだと思うんですよ。だから「嫌いだった」とか言われてもっと巨大な企業に買収されて退場させられてしまうのはちょっと後味悪かった気がしますね。

あとツッコミどころとしてラストのフロリダでのレースは継承の物語としては素晴らしいと思ったんですが、途中でラミレスが走るのってルール的にオッケーなんですかね?w
あんまルール知らないんですが、あれがオッケーならみんなリレーし始めないかな?w

あとちょっと思ったのは2がいくら評判がアレだったからといって、2の登場人物が全く登場せず、主要キャラだったホリーやマックミサイルでさえ黒歴史にされてるのはどうなんでしょう。特にホリーはメーターの彼女だって言ってたんだから何らかの言及があっても良かった気がします。

とはいえ、音楽も良かったし、風光明媚な景色の美しさも相まって個人的には終始感動しっぱなしの傑作映画でした!
マックイーンの物語、堂々完結です!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ