SatoshiFujiwara

キャシー・カム・ホームのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

キャシー・カム・ホーム(1966年製作の映画)
3.5
イギリスでは1960年代〜70年代にかけてロンドンやらバーミンガムのような大都市にスラム街が存在していたらしい。第二次世界大戦直後ではなくこの時代に、である。

経済成長不振によるいわゆる「英国病」と言う奴がその要因であろうが、本作ではそんな時代の若い夫婦がロンドンに出た後に互いの情熱と勢いで結婚したものの、妻の妊娠やら夫の怪我やら失業も重なり、結果高額な家賃が払えずにどんどんランクの落ちるアパートに引っ越さざるを得なくなり、しまいにはホームレス同然となるという救いのない状況を描く。

同じローチの『家庭生活』のレビューでも書いたように、イギリスにおいてはその階級社会に由来するアッパー層の既得権益の固執に第二次世界大戦後のイギリスにおける都市整備の遅延も重なり、元々住む家がない状態。そんな中で明らかに下層に属するであろう若い夫婦の住む家なんぞない。そういう社会の歪みを、80分という短めの尺の中でいささか性急なストーリー展開と荒い編集で(貶しているのではない)すばらしく描き切っている。全く呵責ない演出だ。

尚、本作はケン・ローチがBBCテレビのために16ミリで撮影したドラマであるが、そのためか後年の作品より直截に社会的な問題に切り込んでいる感。それにしても、映画の最初と最後に置かれた妻の似たようなバストショットは、同じ音楽が流されていることもあってその置かれた状況のあまりの変容ぶりが痛切に観客に印象付けられる。その最後のショットに被さる「戦後ドイツでは手厚く住宅を建設したがイギリスでは…」云々の皮肉めいたスーパーインポーズ。
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