笹井ヨシキ

アウトレイジ 最終章の笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

アウトレイジ 最終章(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

北野武監督最新作ということで鑑賞して参りました。

「アウトレイジ」シリーズは監督のフィルモグラフィの中ではかなり王道のエンターテイメントといえる作品で、それまでの独特の編集テンポが生み出す静謐なスタイルではなく、各キャラクターが感情を剝き出しにして恫喝し殺し合う、漫才のノリがそのまま暴力に発展していくような雰囲気で作られており単純に楽しい作品でした。

三作目の今作はそれらとは打って変わり、全体に徒労感や諦観のムードが漂っており、居場所を失っていくヤクザたちが行き着く破滅や虚無感を描き切った何とも寂しい、でもだからこそ最終章に相応しい作品でとても面白かったです。

今作には太刀魚が水面に浮かぶ場面や、パーティ会場での銃乱射シーン、大友の最期など「ソナチネ」を思わせるシーンが多々あり、そもそも「ソナチネ」との差別化で作られていた今シリーズが行き着いた先が、やはり自らの人生に区切りをつける準備をする男の物語に帰結するのは、まずもって興味深いですよね。

周囲が謀略を企む中においても愚直さを保ち、親分、兄弟分、子分に裏切られ続け、それにより部下を死なせ続けてきた大友が今なお生き続けていることで感じる不条理、それはかつて監督自身がイタリアの映画祭で「飢餓に苦しむ人々がいる中で映画を撮るだけでのうのうと賞賛を浴びること」に対して自虐的な皮肉を言い放った姿に重ね合わされるような気がします。

愚直な生き方を変えられない大友が、謀略に利用せず慕ってくれた兄弟分である木村の仇をとり、それ以上の禍根は残さぬように張グループへの仁義を果たしていく最期は、「ま、こんなとこか」というような諦めの雰囲気があり、寂しいですが納得感がありました。

大森南朋演じる市川とのフランクな掛け合いも北野映画っぽい仲間感に溢れていて、一作目では水野、二作目では木村と腹心を失ってきた大友にとって、市川の生存は人生に区切りをつける少なくないファクトの一つなのかなと思いました。

また大友のけじめの話とは別に物語を牽引する花菱会の内紛も面白かったですね。

組織が拡張するにつれて野村や花田のようなトーシローの外様を受け入れざるを得なくなった花菱会がほとんど無意味な権力闘争を行い続ける様には、大友と同じ「変えられない」呪縛のようなものがあり疲弊した空気を醸していました。
最終的には勝利を収める西野と中田の痩せこけた姿には勝利の高揚感はなく、この先どこまで無意味な死を生み続けるのかという不穏な雰囲気が感じられ不思議と哀愁があったと思います。

花菱会とは対照的に描かれる張グループは「ヤクザではない」という矜持を持っており、利権闘争ばかりにエネルギーを費やす花菱会とは全く話が噛み合いません。
3000万の詫び金に3000万上乗せして返したり、西野と中田の詫びが全く受け入れられないシーンはギャグでもあり、「もはやヤクザに生きる場所はない」と無言で宣告しているようでもあり、彼らの居場所が失っていく様を表しているようにも思えました。

大友のけじめ、花菱会の内紛という二つの物語に共通するテーマは、生き方を変えられない男や組織が徐々に淘汰されていく虚しさと諦念、
それは齢70歳を迎えなおお笑い芸人として、映画監督として、芸能人としてトップを走り続ける北野武という人が、いずれ訪れる終わりを見越し紡いだ遺言のようなメッセージを称えており、しかしそこには確かに少しの希望も入っていて、全ての人が受け入れるべき重みを感じました。

あえてイチャモンをつけるなら暴力にしろ恫喝にしろバイオレンスの過激さが後退していたことと、一部のキャスティングですね。

後半の銃乱射シーンは非現実的な凄味を帯びていく北野映画っぽいとは思うのですが、物語上絶対必要なシーンだったかと言われればそうとも言えず、組織の弱体を表現する役割にとどまってしまったのは、ややノイズでした。

中田を演じた塩見三省さんは今作でも十分存在感があるのですが、二作目の喋んなくても怖いギラギラした威圧感はなくちょっと残念だったかもしれません。まぁ脳出血で一度病床に伏せていたそうですし、今作の痩せこけた姿にも意味深いところはあるのですが、せめてサングラスは外して三白眼を拝みたかったですw

あと原田泰造のチンピラはどうなんでしょう?役者としての彼はもっと清潔感のあるイメージだし年齢的にも無理があったんじゃないかな?それほど重要な役じゃない分、妙に引っかかってしまうキャスティングでしたね。

クソ読みにくい駄文になってしまいましたが、とりあえず北野武の映画に一本でも感銘を受けた人はマストで見るべき作品だと思います。
自分も改めて北野武の色褪せぬ天才ぶりに脱帽した一作でした!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ