海

私はあなたのニグロではないの海のレビュー・感想・評価

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そこに居ると錯覚する。本当はそこには居ないのに魂を引き摺られるような感覚がある。喉が渇いて心臓が煩くなる。暗い部屋の中に、貴方は一人で居て、明るい街の中に、私と貴方たちとが居る。窓に垂れた雨の粒が車のエンジンによって震わされ、やがてはコンクリートの上へ落ちて一つの水たまりをつくる。落胆に接しているような幸福と、犠牲の上の安堵に乗っていられる幸福がある。その2つは同じ言葉で表されるのに決して手をつなぐことはできない。わたしが思いたいよりもずっと世界はどうにかなるようにはできていなくてどうにもならないことばかりで溢れていてそれに潰されてぐちゃぐちゃにされて死んでいった者とそうはならないように必死で堪えて地面に膝を食い込ませている者が居る。わたしが思いたいよりもずっと、愛するとか讃えるとか慈しむといったうつくしいそれらの精神の活動のためにやれる表現にはきっと限りがあるし、それなのに憎むとか蔑むとか痛めつけるといったことのためならば、人々は幾らでも方法を思い付ける。そう思えてしまうときがある。他人を見くびり、慢心した人の口から出る、何も解き切れていない解説、解釈のこと、そして、自分が馬鹿に見えないようにと保身から出てくる、謝罪や、熱弁のこと、どんな顔をしてそれについて受け止めればいいのか分からなかった。自分の知識は、知恵は、無関心さと1番遠い場所に常にあっただろうかと必死で思い返した。考えて下さいと言われる。自分で考えて下さいと数多くの映画が私たちに言っている。このひとたちの怒りや悲しみ、その涙は、当事者であるこのひとたちだけでなく、目を逸らしたくないと願う全ての人達により流されるべきものじゃないかと強く感じた。
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