糸くず

散歩する侵略者の糸くずのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
3.7
どうも「黒沢清の映画」を見ているというより、「黒沢清のパロディー」を見ている気分に陥ってしまって、今一つ。

侵略者たちは、人間が築き上げてきた概念を持たないのだから、概念を一から得なければならないと思われるのだが、彼らはなぜか「概念」という言葉とその意味を既に理解しているようで、その時点でSFとしてかなり大きな穴を持ってしまっている。

さらに、おそらく黒沢清は「概念が奪われる」という事態そのものにすら関心がないように思われる。「自分」と「他人」が奪われた車田刑事(児嶋一哉)の「君たちはわたしだから」という言葉も、「邪魔」を奪われた品川(笹野高史)の「みんなともだち」という言葉も、単なる言葉遊び以上のものになってない。どの人物にとっても、概念を奪われることは、人間の社会における規範から自由になることであるようだが、そうした事態に直面した時に単なる解放感のみで事態が収束するとは思われない。「概念を奪われる」ということがあまりにも軽く扱われているように思う。黒沢清にとって重要なのは、人間から人間にとって大切だと思われている何かが奪われる瞬間だけであって、後のことは知ったこっちゃないのかもしれない。

それでも、黒沢清ワールドの住人として愉快に振る舞う役者たちを見ているぶんには楽しい。特に松田龍平は持ち前のへなへなとした存在感が過剰に出ていて、スリッパを落とす龍平、犬に話しかける龍平、人の家に勝手に入ろうとする龍平(ここでの満島真之介とのやり取りはコントのようでとても好き)、ベッドから転げ落ちる龍平など魅力的な彼の姿がふんだんに盛り込まれており、彼のファンは必見と言ってよいだろう。あと、長澤まさみの「やんなっちゃうなぁ、もう!」は思わず口ずさみたくなるフレーズ。恒松祐里は素晴らしいアクションが出来る人だと思うので、いつか土屋太鳳や武田梨奈と殴り合ってほしい。
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