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ケアニン あなたでよかったのKUBOのレビュー・感想・評価

3.8
「そばに寄り添っていることしかできなかった。」
「それでいいんだよ。」

宮古島、よしもと南の島パニパニシネマでの鑑賞1本目は「ケアニン〜あなたでよかった〜」。

何度忘れられても毎朝「大森圭です。よろしくお願いします」と言って敬子先生との関係をリスタートさせる若き介護福祉士の姿を見て「50回目のファーストキス」とどこが違うんだろう?って思った。若くてきれいな女性の記憶障害は泣ける悲劇になるけれど、おんなじじゃんって。

前半は我々の知らない「アルツハイマー」症患者の実際や「介護」という仕事の現場を丁寧に説明しながら物語が進み、よくある勉強になるけどテーマをベタに伝える系のやつかな?と思いきや…、いや実際「映画で介護職の魅力を伝えたい。観た人が介護の仕事の尊さを感じてもらえるような映画にしたい」という目的ありきで企画された作品ではあるのだが…、それだけではなかった。

ひとつひとつの台詞がいい! 実際の介護の現場から出た生きた言葉が台詞になっているということで、心に残る言葉がある。

「介護って言う言葉がそれを特別なものにしてしまう。誰でも死ぬし、誰でも歳をとる。歳をとって困っていたら手助けをしてあげる。自然なことじゃないか。」

「介護」だけかと思ったら、終盤もう一捻りあるのはよくばりかとも思ったけど、その終盤のシーンにより感動したことは確か。私の母は何の前触れもなくぽっくり死んでしまったので、息子が死を前にした母に語りかけるシーンには羨ましささえ感じた。

そう、本作には世代別にいくつか感情移入できる視点があるところが上手い。若い人はもちろん主人公の若き介護福祉士に、私のようにある程度年配の人間には息子であり父親役の山﨑一に、それぞれの立場で見られるので共感できるのだ。

主人公を演じる戸塚純貴は初めて見たけどとっても良かった。爽やかな伊藤淳史って感じ? 脇は山﨑一、菜葉菜、小市慢太郎と実力派の名脇役がズラッと揃う。

びっくりするのがアルツハイマー症患者役の水野久美だ! 東宝特撮映画で育った身としては、御歳81歳にして可愛さを残すおばあちゃんとしてのこの名演技は永久保存版だ!

それから松本若菜って可愛いしいい女優なのに、どうしてメインストリームから外れちゃってるんだろう? まあ、そのおかげでつまらん映画出ずに「ペコロス」とか良い映画に出れてるのかもしれないけど、もっと活躍してほしい女優さんなんだ。

ちょっと理想的過ぎるかもしれない。それでも余りある感動がある。辛いことや嫌なこともいっぱいあるだろうが、それは「先生」だって同じこと。辛いことばかりを挙げつらった学園ものの映画もないし、介護の素晴らしさや意義を伝える映画があったっていい。

いい映画だった。

(私は亡くなった母、叔母、祖母との関係の中で、本作で扱っているテーマであるアルツハイマー、癌、延命措置などをそれぞれに経験していたので、見ていてさまざまな思い出とオーバーラップした。)
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