笹井ヨシキ

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?の笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

原作未読で観てきました。

観る前から否が応でも色々な評判が目についた本作ですが、個人的には全然嫌いじゃなく、時間遡行モノならではの成長をしっかり押さえている作品だと思いました。

自分がこういうタイムループ映画で面白いと思うところは、「あの時ああしていれば良かった」とキャラクターが繰り返すことで、己の中に眠る可能性やアイデンティティを模索していく過程にあると思うんですよね。

「もう二度と会えないなら」と現状を諦観していたなずなが、「次いつ会える?」と問いかけるシーンでは、典道と旅をすることで何者にでもなれて、どんなこともできる自分の可能性に気づき、未来に向かって歩んでいく姿が想像できたし、
典道たちも自分の気持ちを解放し好きな人の名前を高らかに叫ぶシーンには、素直に自分表現することを学ぶほんのささやかだけど確かなカタルシスがあったと思います。

不思議な玉が割れてなずなと典道が模索した様々な可能性の残滓が降り注ぐシーンはアニメならではの表現で魅力的に作られていて良かったです。(原作でも使われている楽曲のカバーも素敵でした!)

ループを繰り返す度に虚構性が如実になっていく表現も面白くて、
一回目のループ時のカメラワークや主観と俯瞰の使い分け、キャラクターの何気ないセリフの違いなど現実との対比が描かれるのに対し、二回目はあえて色褪せた作画でぎこちないの動きのアニメーションを使っていたりと、シャフトという製作会社の色を存分に出した工夫が楽しめました。

ラストシーンはいわゆるオープンエンドというやつで、これを投げっぱなしと捉えてしまう人の気持ちもわかりますが、自分は擁護したいです。
テーマとして「若者の可能性は当人たちには見えづらいかもしれないけど、確かに無限に開かれている」ということが掲げられている今作において、典道やなずなの姿を限定してしまうことはテーマと乖離してしまうのではないかと作り手の方々は考えたのかなと。
なずなと典道が学校という囲われた空間から抜け出したという事実こそが重要なのであり、その後は描かないというのはそれほど間違った選択じゃない気がします。
まあそれで観客の顰蹙を買ってしまったのは損だと思いますが、自分は嫌いじゃなかったです。

だから自分はこの映画楽しく観たんですが、確かに一つ一つの要素がチグハグに感じてしまうところもあり勿体ないと感じる部分もありました。

まず一番の残念に思ったのは、「これいつの時代の話なんだろう?」ということです。

去年ヒットした「君の名は、」や「この世界の片隅に」は時代設定が違えど、どちらも印象深いアイテムやワードで時代的記号をバシッと示してくれていたから、我々が生きている世界と地続きであるリアリティがあって映画世界に親近感が持てるんですよね。
こういう映画は没入度も高くて長く愛されやすいと思うんです。

対して今作は「ワンピースの最新刊」なんていう現代っぽいワードが示される一方で、スマホや携帯は一切登場しないので不自然な感じがする。
典道たちが遊んでいるゲームもワイヤレスのコントローラーでハードはPS3っぽい印象を受けますが、やっているソフトは8bit横スクロールアクションっぽい古めかしいもので、チグハグな印象しか受けません。(原作だとスーファミらしいです)
終いには「観月ありさー!」という余計な原作オマージュが入ってしまうので、時代設定がめちゃくちゃでノイズになってしまう。(もちろん現在でも観月ありさ好きな中学生がいないとは言いませんがw)
これは企画段階から原作の忠実な再現アニメ化なのか、それとも現代的に再構築した語り直しなのかしっかりと決めて、時代的記号に統一感を出すべきだったと思います。

あとキャラデザがかなり大人びているせいで、原作では小学生だから許されていた(であろう)無邪気な発想や清純性の揺らぎみたいなものが、単に幼稚でバカっぽく見えてしまうのも損している部分なのかなと。
なずなが母親の再婚に理解を示さないのも単にわがままなだけに思われかねないし、そもそも「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」という発想自体も小学生だから素朴な微笑ましさを感じさせると思うのですが、あの年代だとジュブナイルものの共感からは遠ざかってしまうのかなとも思いました。

菅田将暉の声に関しては個人的にはそんなに気にならなかったですが、やはりプロの声優や経験のある広瀬すずに囲まれた中では浮いてしまっているのは否めず厳しい意見が出るのもわかります。流石に主役は荷が重かったかもしれませんね。

とはいえ自分は今作支持派であり、語られるべきところは語られている作品だと思います。もうちょっと各々の要素が噛み合えばもっと良くなったと思うので、同じような企画で映画が作られた時にはまた是非見に行こうと思います。
笹井ヨシキ

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