デニロ

博奕打ち外伝のデニロのレビュー・感想・評価

博奕打ち外伝(1972年製作の映画)
3.5
1972年製作公開。原案島村喬。脚本野上龍雄。監督山下耕作。

内紛劇。好きです。跡目争い。裏で絵を描き糸を引く実力者。でも本作はその類の内紛ではありません。辰巳柳太郎は跡目を若山富三郎に譲る決断をする。若山富三郎と同格で、代貸として組を仕切る高倉健も諾とする。実は、高倉健は辰巳柳太郎の実子なのだがそのことはふたりと継母しか知らない。辰巳柳太郎は無用な風鈴を鳴らしたくはなかったのです。

本作の内紛は松方弘樹の暴走に他なりません。跡目はしっかりと定められていて周囲も納得付くですから。彼の暴走は何が何だかわかりません。法令順守なんてそもそも彼らにはありませんが形だけとはいえ「仁義」なるものがあったのではないかとも思うのですが、彼には欠片もありません。親分たる若山富三郎に無断で「仁義」を蔑ろにいたします。若山富三郎も俺に恥をかかせるのかと叱咤するのですが、面従腹背で更に勝手な真似をし続けます。いや、若山富三郎を追い落として自分が頭になろうとしているわけではありません。若山富三郎のためだけに、親分を強く大きく見せようとそれだけなのです。一途です。迷いはありません。『仁義なき戦い』の金子信雄を蔑ろにする松方弘樹とは違います。が、なんと松方弘樹、若山富三郎を二代目に指名してくれた親の辰巳柳太郎を闇討ちし惨殺します。殺ってきました。その報告を聞き恐れ戦く若山富三郎。俺を親殺しにしやがって!!日本刀を手に怒り狂う。が、一途に自分を思う松方弘樹を断罪出来ぬ。これほどに自分を思ってくれる者はいない。ともに地獄に落ちよう。ひしと抱きあうしかないふたり。

主演は鶴田浩二。客演の高倉健との約束を守るため松方弘樹の横紙破りにじっと耐える姿が痛ましい。その我慢のために菅原文太、伊吹吾郎というふたりの弟を失う。その墓前で陰腹を切って詫びる高倉健。それを遠くから見る辰巳柳太郎。この辺り、もはや何が何だかわかりません。

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