ターミガン

きみの声をとどけたいのターミガンのレビュー・感想・評価

きみの声をとどけたい(2017年製作の映画)
2.9
『時をかける少女』『サマーウォーズ』を手掛けたMAD HOUSE制作のオリジナル長編アニメ
2017年8月25日公開作品




神奈川県の海辺にある町のミニFMを舞台にした夏の学園モノ、って事で嫌いな要素ゼロなので飛び付いた。
が、しかし期待しすぎたというか、あまりヒットしなかったのが分かるというか、最後までハマらなかった。




主題は【母と娘・友情・言葉のチカラ】なのだが、軸がありすぎたせいでどれも大味にとっ散らかった印象を受けた。





そんなワケで気になった点を幾つか。




まず、開始10分で歌詞有りの曲をBGMにするのは早いと感じた。
OPテーマ代わりの演出かもしれないけど、曲というより歌詞を聞かせたい意図が見受けられて、まだコチラはほとんど感情移入してないぞ?と違和感を覚えた。



次に、本作の主題の1つにもなっている“言霊”の球体描写がチープ。
制作側が言葉を大事にしてほしいとキャラクターを通して伝えたいメッセージは分かる。
しかし、あんなに可視化させなくてもいいと思う。
高校2年生の夏休み、奇跡のような友情の1ヶ月というだけで充分美しいわけで、そこにわざわざ一点だけファンタジーを盛り込む必要があったのか?
そのたった一点のファンタジー要素だけで、この物語が“完全に非現実”になるし、他の目を瞑ってきた展開(※ラストの転院搬送中の矢沢母のくだり等)も一気にチープになってしまうし、あれなら言霊は描写しない方が懸命だと思う。




そして登場人物のキャラ設定について。
「これ男性が描いた脚本だよね、、、」と、いちいち言いたくなるぐらい登場する女の子達に“ナチュラルな女の子らしさ”が欠落している。


主人公・行合なぎさは、無邪気なんだか無神経なんだか分からない無鉄砲で、そういうのは某麦わらの海賊王目指してるゴムの人とダブる。
その同級生で、ラクロス部のエース・龍ノ口かえでは、一人称がずっと『俺』
2人の同級生・土橋雫は唐突な『下ネタ推し』
そして彼女らのラジオ放送を底上げする同級生・中原あやめの『ラジオヲタっぷり』


こういう要素は誰か1人に集約させるべきで、皆が持っているとなると凄くアンバランスになる、、ってのを分からない人が書いたのか、はたまた発注者が無理に女の子キャラで推したのか、とにかく感情移入もできず視点も定まらないまま、こうした不自然なキャラ付けと90分で描ききれてない人間性も相まって、“登場人物がこの子達である理由がない”と思わせてしまっている。



もしかしたら本作は90分の劇場用というより、30分1クールの深夜アニメに向いていたのかもしれない。


その証拠に作品の主題の1つでもある【母と娘】を担っている、矢沢紫音と川袋電器店の店主との再会や、その紫音となぎさ達とで育まれる友情や、皆との夏祭り等、もっと深堀りできてもっと視聴者を感情移入させられる要素のあるイベントの多くがダイジェストで駆け抜けていった。
主人公・なぎさが母親を「ミツエさん」と呼ぶのも劇中で何の説明も無かったと思うのだが…



作画も“鼻を描かない”タイプのもので好みが別れると思う。
とにもかくにも、何だかもったいない。



舞台やテーマは悪くないのに肝心の登場人物にリアリティーがない事で、ずーーっと地に足が着いてないフワフワとしたものを見たという感じ。