森崎

夜は短し歩けよ乙女の森崎のレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
4.0
面白かったしなんだか好きだなあ、こんな作品。
オモチロイことへとずんずん歩く黒髪の乙女をめぐる不思議な一夜の物語。

ご縁の糸に導かれた黒髪の乙女とご縁の糸に引きずり込まれた先輩それぞれを主人公に、京都は先斗町での飲み競べや下鴨神社での納涼古本祭り、大学での学園祭、風邪が蔓延し閑散とした街中、と何かしらのきっかけを手繰り寄せながら春夏秋冬駆け巡る。

元来わたしはこの作品の原作者である森見登美彦の作品というものを苦手としていながら幾度かアタックしている節がありまして、アジカン→中村佑介→の流れで知ることとなった『夜は短し歩けよ乙女』はかつて文庫本を買って読み進めたもののその節回しやみっちりと詰まった文字が肌に合わず友人にあげてしまうという初めて読みきれなかった挫折を味わった作品でもありました。時は流れ『四畳半神話体系』がアニメ化されたときに視聴するもなんとなく挫折、そして何気なくテレビ放送されていた本作を途中から観て面白さを知り再び『四畳半~』を見始めたら浅沼晋太郎の“私”の語り口がとてもしっくりきたじゃありませんか。なるほどあの言葉は読むではなく聞くものだったのかとしっくり来て視聴を続けてみたらば不毛な大学生活を送ったわたしにはどこか耳が痛いような内容。「あなたには才能がおありのようだし」と言われればほいほい怪しい占い師の言葉に耳を傾けそうになりそうだしヒロインの明石さんは好きだしと楽しく観ていたはずがループ物で中盤だれたせいかやはり挫折しそうになり、と森見作品には何度となく振り回されているような気がしないでもない。というか気づけばなんなんだこの文字数は。責任者はどこか。

戻ります。
本作は純真無垢な黒髪の乙女のまあ可愛らしいこと。何事にも一生懸命でご縁を大事にする彼女だけれどちょっとズレていて、でもそのズレが周りの奇天烈な世界をも肯定してくれる。
そして先輩の乙女への淡い恋心が良い。永久外堀埋め立て機関なだけにいざ振り向いたらどうする?を想定していなかった故の焦りや乙女のため一生懸命になるところとか。
そんなそれぞれの主人公の物語となる冬パートが可愛らしくくすぐったい。

思わず片手に持ったワインをがぶりと飲み干したほどお酒っていいよね美味しいよね楽しいよね!と思える「そこにお酒がある限り!」な春パートの李白との飲み競べのシーンやドラマティックな秋パートの学園祭も好き。韋駄天こたつ入ってみたい!

初めて観たときもそうだったけれど、目まぐるしく長いようで短い一夜の物語はあっという間に過ぎる。改めて観てもあっという間で「ああ、面白かった」と純粋に思えるこの作品がわたしは好きです。
森崎

森崎