イホウジン

夜は短し歩けよ乙女のイホウジンのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.6
「四畳半神話大系」のセルフオマージュ

監督,脚本,原作,一部の登場人物,一部の設定に至るまで、テレビアニメ「四畳半神話大系」と重複する要素がとても多い。ここまで世界観がかぶると、今作の舞台もまた四畳半の中の世界線の一つなのだろうかとさえも考えてしまう。しかしだからこそ、どうしても今作は四畳半と相対的に比較される運命に置かれてしまう。
正直2つを比べてしまうと、今作の物語の強度の弱さが目立つ。伏線回収の多様や群像劇としての完成度の高さなど、テレビアニメを受け継ぐ部分は多いのだが、今作と四畳半神話大系を別物として描かない以上そのテンポの異様な速さに目が向いてしまう。軽快なテンポで物事が進み観やすい映画であるのは事実だが、それがかえって出来事一つ一つや登場人物一人一人の深掘りを妨げてしまっている。
また、ストーリーの軽さもこの映画では際立つ。四畳半神話大系は確かに毎話怒涛の展開が続き視覚的にもとても楽しいアニメだったのは事実だが、主人公のバカ真面目なキャラクターは作品に「有意義な時間とは何か」という深い問いかけをもたらした。その骨太さと比べてしまうと、今作の展開は薄っぺらく感じてしまう。一応は「時間のスピード」というテーマを内包しているが、それ自体が物語の主軸になることはなく、今作はあくまで娯楽的な観やすさを追求した作品とも言えよう。

楽しい映画ではあるが、記憶に残る映画だったとは言いにくい。
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