ナミモト

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのナミモトのレビュー・感想・評価

3.8
マーゴット・ロビーのファンです。
負けん気の強い破天荒な性格、自分がこうと決めたことは絶対にあきらめない、周囲の基準に合わせる気なんてない、なぜならその基準に合わせてしまったらそれはもう自分では無くなってしまうことだから。
実際に90年代のアメリカ フィギュアスケート界で起きた、オリンピックを目指す選手とその周囲の人間達が起こした、暴行事件に基づくフィクションです。が、事件の真相を明らかにすることを目的としているのではなく、その事件に関わった人々の心理や考え方の傾向を描いた作品と見るべきと思います。
一癖も二癖もある母親、最初の恋人でもあった旦那、旦那の友達…。彼らの背景にすけて見えるのは、毒親であり、白人至上主義かつ男尊女卑。そして、事件を追うマスコミの心ない報道。トーニャが常に闘わなければならなかったものは、決して、フィギュアスケートのライバル達だけでは無かったこと、そして、そうした気軽に生きにくい状況が彼女を強くしたことも確かであると分かるのが、見ていて辛くもあり、すれ違や行き違いから生じる事件の悲しさも感じました。
印象的だったシーンは、鏡の前で泣きながら化粧をして、それでも演技の前の笑顔を作って自分自身に見せるトーニャの姿です。ホアキン・フェニックスのジョーカーの冒頭シーンとも似てますね。人前で、本当はそうではない自分を演じる悲しみや辛さが、鏡というイコンに集約されている。悲しいんですよ、本当は。イメージとしての自分と本来の自分が裂けてしまう感覚は、痛いんですよ。
トーニャがスケートを続けるのは、それは、母親に自分を認めて欲しかった、愛して欲しかった子どもの時の自分がずっと心の中に居続けているからなのだと感じました。
誰もが、子供の時に感じた痛みをずっと、抱えたまま大人になり、その痛みがあるからこそ、強くもなれるし、逆に誰かに優しくもなれるのだとしたら、
…とここまで書いているうちに、だんだん、これってエヴァのシンジやアスカもそうなんじゃないかな、という気がしてきました。大人になれない、大人になる前のはざまの子どもたちの葛藤もの、なのかもしれませんね。
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