ジェイコブ

キャット・シック・ブルースのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

愛猫のパトリックの死を受け入れられず、精神を病んだテッドは猫を蘇らせる事に固執するようになった。やがて9人の人間の命(血)を捧げればパトリックが戻ってくると思い込んだテッドは、愛猫を蘇らせるため凶行に走っていく。そんな中、愛猫の動画を動画投稿サイトに挙げて生計を立てているクレアは、突然ファンと称する男に愛猫を殺された上、レイプされた事で心身ともに限界がきていた。クレアは自身の現状を変えるため、ペットロスの人々が集まる集会に足を運ぶことに。そこで知り合ったテッドと意気投合し、二人は一夜を共にするのだが……。
オーストラリア産ホラー。内容のぶっ飛び具合もさることかながら、生々しいゴア描写の数々で数年前からホラーファンの間で話題となっていた本作。監督は本作が長編映画デビューらしいが、それを感じさせないクオリティと、音楽使いのセンス、さらにテッドという近年稀に見るサイコを作り出したクリエイティブ性には脱帽せざるを得ない。
「9人殺せば猫生き返るから、ボク殺す!」とばかりに無差別殺人に及ぶテッド。そそり立つペニスバンドに黒猫マスク、さらに鋭い爪付きグローブと、見るからに規格外に変態度の高い見た目だけでも100点満点をあげたいところだが、特筆すべき点は犯行に至る過程と犯行後の理解不能な行動の数々。それでいて殺人を行う理由は当初猫のためであったのが、いつしか自らのサディズムな欲望を満たすためへと変わっていった点も、彼自身の心の弱さや脆さを描いている。
西洋には「猫に九生あり」という諺があり、バットマンの中で、キャットウーマンも9回生き返ると語る場面が見られる。テッドが9人の人間にこだわった理由はそのためであるが、テッドは男女お構いなしではなく明らかに抵抗力のない女性だけを狙っている。個人的にはテッドよりも、ネット上に出回ったクレアのレイプ動画を社会正義という名のもとに世に晒し、自分の動画の再生回数に繋げようとする動画投稿者の方が胸くそ悪く感じたので、希望としてはテッドがクレアのためにそうした連中を惨殺して9人に至る展開の方を期待してしまった。それにしても殺人事件で、不謹慎ジョーク満載なラジオといい、欧米人の倫理観のヤバさには笑うしかなかった。その他にも思わず笑えてしまうような場面もあり、約100分があっという間だった。
ラストでテッドは、クレアから抵抗を受けた際に追った傷が原因で絶命してしまう。警察が現場検証の際に、彼の部屋の中にあったビデオを見ると、愛猫と共に楽しそうに映る少年期のテッドの姿が流れるのだが、それを観たら何だか胸が張り裂けそうになった。これは元は猫好きな普通の青年が、喪失感を紛らわそうとするために殺人を犯していく内に、自らの中にいる怪物に支配されていってしまった。笑えてしまうような殺人鬼「キャットマン」の外見は、そんな自身の内側にある悲しみを覆い隠すためのものなのかもしれない。まるでそれは、猫が死ぬときに大好きな飼い主には見られないためいなくなるという話に通じるものがあるように感じた。