せいか

ピーターラビットのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ピーターラビット(2018年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

金曜ロードショーで放送されていたのでみる。
全体的にブラック風寄りのコメディー。
原作の絵本からは恐ろしく内容がかけ離れている。
メインにぶっ飛んでる人間がいるからか、他の人間たちはいちいち常識人揃いだった。

老マクレガーさんはピーターラビットたちとの戦いの日常の末にサクッとお亡くなりになり、その血縁関係にある男性が新たなマクレガーさんとなって屋敷にやってきて、隣人の脳みそフワフワな女性とうっかりいい仲になりつつ(清々しいほど最後まで全く好感が持てるところがない)、ウサギたちにやはり悩まされつつで話は展開する。

冒頭からとにかく、動物たちが悪魔じみている。狡猾で利己的で人語も操り、人間の価値観から言うのもおこがましくはあるが、倫理観に当たるようなものもおよそなく、邪魔者に対する手口は悪質の域を超えている。老マクレガーの死のあたりにさしかかるころには、「悪魔どもめ!」と内心罵倒の言葉が過りもする。そんな映画である。

冒頭の動物乱痴気騒ぎシーンなどは、もしやこのままオーウェルの動物農場的な展開になるのかと密かに震えていたりもしたが、特にそんな展開にはならなかった。

片や、人間側の主人公であるマクレガーさんは、結構、観ていて愛着のわく人物で、ロンドンのおもちゃ屋でバリバリと意気込んで働いている描写から最後まで好感を持って観ていた。特にこの初登場シーンのロンドンでの話のテンポ感覚はかなりお気に入りのシーンにもなった。我慢の限界を越えると途端に物に当たり散らして破壊の限りを尽くすのは欠点ではあるのだが、基本的に性格は温厚でやや間抜けで人並みに優しい人物だと言える。
ゆえに、彼の不幸をたっぷり見せられる本作では、ずっと、彼を応援しながら観ていた。

マクレガーさんは女性を見る目がなさすぎる上に、相手がどれだけ自己中心的でフワフワしてヒステリー展開していようと自分のほうがとにかくへりくだって関係をつなぎ止めようとする。最後にはなんかいい感じに話がまとまってくっついて大団円なのだが、彼に幸あれとそっと十字を切る気分になる。
というか、ヒロインのあのフワフワ女っぷり、相手のことを無視して突っ走っておきながら被害者ぶりもし、そしてまたそれが特に咎められることもなく成長することもないって、よろしくない方面のフェミニズム的なものや、現代のありとあらゆるとっちらかってる人々の概念をまとめたような人物像だなあとも思った。そこまで愛護精神がおありなら、まずは自分が畑を耕すなどしてみては?という突っ込みが出てしまうようなところも含め。もしかしたら意図的にブラックジョーク的にそういうキャラクター造形にして、ああいう展開にしていたのかなと勘ぐりもするが、このへんは私の勝手な感想である(あの女性のヤバさについては店の店員たちも端的に表現してもいたが)。

基本的に人畜無害ではあってややぼんやりしたところのあるマクレガーさんに憎しみを植え付けたのは動物たちの因果応報だし(前代といえる老マクレガーとの憎しみ合いがあってこそでもあろうが、それだってそこまで発展する経緯を想像してみると思うところは出てくる)、頭から敵視してそれをさらに際限なく極端に焚き付けたのも動物たちだし(やってやられての応酬劇のようにも見えるが、マクレガーさんのほうは別に自分のテリトリーを犯されない限りは限界が来るまでは相手のテリトリーを犯すことはしなかったわけで)、いよいよ怒髪衝天して爆弾を畑に撒きながら悪魔どもを追いかけ回すシーンはむしろなんだか胸を打つところはある。脅かされ続けるならば、行き着くところは破壊しかないのだなあ。現代にも通底する憎しみ合いや争いというものを端的にコミカルに表現していた作品だと取ってもいいような気もする。

上記の感じでヒロインとよろしくなっていく中で、そこに愛はなさそうなフワッフワな幸福に浸されて過ごす彼を観ていると、正気になれとしみじみと思ったものだが、正気になってロンドンへ戻っても悪魔どものほうが追ってきて引きずり戻されていた。ホラー映画ともいえる。

鑑賞後の感覚としては、おれは何を観ていたんだという感じである。
せいか

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