てつこてつ

デ・パルマのてつこてつのレビュー・感想・評価

デ・パルマ(2015年製作の映画)
4.0
「殺しのドレス」の倒錯的でありながらもめくるめくカメラワークの美学に魅了され、一気に映画の虜となるきっかけを作ってくれたのは、ブライアン・デ・パルマ監督。

この作品は、110分間、最初から最後まで彼のこれまでの半生や、監督した作品に対する思い、エピソードトークのインタビューを中心に、後は映像資料だけで構成されているので、デ・パルマファンなら必見、そうでもない人には特にお勧めはできないというマニアックな内容。

父親は著名な整形外科医、厳格なクェーカー系の寄宿舎で学び、名門コロンビア大学でも専攻したのは意外にも物理学。そこで影響を受けたのがヒッチコックというのは、彼の初期の作品を見た人なら誰もが頷ける周知の事実だが、実は、フランスのヌーヴェルバーグ、特にゴダールから刺激を受けて映像の世界に入ったというのは知らなかった。

初の監督作品は、これまたロバート・デ・ニーロの初出演作品であった事や、スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、コッポラ、スコセッシといった後のアメリカの映画界を支えた重鎮たちと仲が良かったというのも、デ・パルマだけは、やはりカルト系の色が強いため、何だかとっても意外。

「キャリー」のブルーレイ特典にもあったけれど、「スター・ウォーズ」と「キャリー」の出演者のオーディションは、デ・パルマ、ルーカス、スピルバーグで合同で開催された話は結構有名。レイア姫役の候補でもあり、結果的には「キャリー」の優等生スー役にキャスティングされたエイミー・アーヴィングは、後にスピルバーグの妻となった(後にデ・パルマの伴侶となったナンシー・アレンは、「スピルバーグは『キャリー』の現場で片っ端から若い女優をデートに誘っていた。それに付いていったのはエイミーだけ」と語っているw)。ひょっとしたら、ルーク・スカイウォーカー役にウィリアム・カットがキャスティングされていたら・・とか想像すると、それはそれで面白い。

デ・パルマ作品の特徴でもある、二分割スクリーンについての彼の考えや、長回しシーンのヒッチコックの名言についても言及しており興味深い。

このインタビュー作品では、おそらく日本ではDVD化されていないであろう前述のデ・ニーロ出演の初監督作品の映像の一部はもちろん、出世作となった「地獄のシスター」「ファントム・オブ・パラダイス」「愛のメモリー」「キャリー」「殺しのドレス」「フューリー」「ミッドナイトクロス」「カジュアリティーズ」「スカーフェイス」「ボディ・ダブル」「アンタッチャブル」「レイジング・ケイン」「カリートの道」「ミッション:インポッシブル」「スネーク・アイズ」「ファム・ファタール」「ブラック・ダリア」「パッション」と、おそらく彼がメジャーな配給会社で製作し日本でも公開された全ての作品について紹介がされ、それぞれの作品に対する彼の思いが語られている。

中には、「カジュアリティーズ」に出演したショーン・ペンがやや性格が悪かったとか、「スカーフェイス」「カリートの道」で組んだアル・パチーノが気難しかったとか、「フューリー」は大スターのカーク・ダグラスをキャスティング出来たのは嬉しかったけど好きな作品ではないと・・とにかく冷静でありながらも歯に衣着せぬデ・パルマの喋り口調が面白い。

おそらく好きな監督名を挙げろと言われれば、自分は一番に口に出すであろう監督さんなので、本当に見て良かった。但し、大ファンとしては、もう少し、一つ一つの作品についてのエピソードトークが多ければ良かったなという点で減点が一つ。

「映画監督が真の実力を発揮できるのは30代~50代。それ以降は、事実上難しい」と述べる彼の言葉の意味は、常にスタジオ側と闘いながら、自分の美学を貫いてきた彼ならではのもので、中々深いと感じた。
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