垂直落下式サミング

サラリーマン・バトル・ロワイアルの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
とある会社の80人の社員たちが、突然オフィス内に閉じ込められる。そして、謎のアナウンスと共に、彼らは殺し合いのゲームに強制参加させられてしまう。
善人、常識人、強い人、脆い人、超合金の隔離壁に阻まれたオフィスのなかでは、80名の人間模様が渦巻く。見せ場となる大量間引きの場面では、もう物語上の役割を失ったヤツから死んでくし、活躍したと思ったら呆気ない最後が待っていたりと、みていて気が抜けない。
最初は何がなんでもみんなで生き残れる可能性を模索すべきだと主張する人にみんな付いていくけれど、おっしゃ!オマエらはオレが導くと覚悟が決まって悪い方にリーダーシップを発揮していく人が出てきて、それに流されて人殺しに荷担してしまう人がいたり、元からアウトめな人は環境が許せば簡単に暴力行使のタガが外れてしまうなどといった具合に、キャラクターの性質が整理整頓されており、しっかりといろんなタイプが描き分けられていて面白い。
男の頑固な正義感に対して、女性の視点から「ああいうのを下手に刺激して敵に回さないほうがいい。死にたいの?」と冷静なツッコミが入るなどして、ヒーローっぽい気質のヤツが無条件で讃えられるものではないってのも現代的。
上層階の意識高い系と責任者、大多数の中層の企業人たち、下層の木っ端の雇われ技術者、みなが平等に資本主義の歯車だとでも言いたげだけれど、ソコからさらにもう一段ねじれた着地をみせる。トンデモ都市伝説のようではあるが、あのまま顔の見えるものを悪役にするよりも、何者が仕組んだのか不確定なほうが俗悪みが増してよかったと思う。
映像的なギャグが上質。注目なのは、看板やら標示の使い方。ロビーに“business without boundaries.”(ビジネスに境界線なし)と社訓っぽい標語が印象的に掲げてあるのがいいし、トイレで惨殺した男がドアを閉めると“なんちゃらかんちゃらnext user.”(たぶん、次に使う人のためキレイに使いましょう的な意味)と戸の裏側に書いてあるなど、皮肉めいた遊びが満載。ベリー悪趣味。
アメリカンのセンスだなぁ…。ウォーキングデッドのゲームで、岩塩で頭をぶん殴って殺したときに獲得できるトロフィーが「塩分過多にはご用心」なのを思い出した。ジェームズ・ガン脚本が持ち味出しまくっていらっしゃいますね。
お気に入りは、ガチのボンクラ社員ショーン・ガン。出社してきたみんなが仕事モードに切り替えてるなかで、職場のトイレでマリファナ吸うアホ。避難訓練中に屋上でサボった挙げ句、みつかって注意されたのに会社の契約書にはウンヌカンヌと屁理屈をこね回して、なにも生産していないのに給料が発生している今の状況をみてみろ!つまり、俺こそが勝ち組だ!とでかい態度をとる始末。俺の思考回路とそっくりそのまんまで、笑うしかなかった…。なにやってんだお前。
その後しばらく見せ場がなかったから心配だったが、そこそこ終盤まで生き残っており、飲料水に向精神薬が混ぜてあるんだっ!やっベー俺っち気づいちゃったぜとウォーターサーバーを壊してまわるなどして活躍?していた。
無意味な行動をするバカに向かって、床にカビが生えるからやめろ!って注意するもう一人のバカもかわいかったなぁ。生死をわける緊急事態なのに、何一つ役に立ってないアホコンビ。アメリカの分断を可視化したような白人陰謀論者と能天気ウドの大木。殺伐とした現場に、こういう脳足りんがポンと放り込まれていると安心する。
あとは、エレベーターのシーンがよかった。生き残りがしぼられてきた最終局面で、あまり接点のなかった男と女が成り行きで一緒に隠れることになり、男の子は「よし、この女の子は僕が守らなきゃ!」と決意し、女性の肩に手を回して抱き寄せるのだが、放送でこの女が一人殺していることを知って、すごすごと手を引っ込める。すごく情けなくて笑えました。