かのん

バッカス・レディのかのんのレビュー・感想・評価

バッカス・レディ(2016年製作の映画)
3.8
「死ぬほど上手」という噂の高齢者向け売春婦ソヨン(ユンヨジョン)。ある日、母親が逮捕されてしまい1人になってしまった混血の男の子を助けたソヨンは、その子を家に連れて帰る。彼女の家は、元男の家主や義足の男など複雑な事情を持った人達が暮らすシェアハウスだった。久々に再会した昔の客が、寝たきり状態で生きるのが辛いと呟きソヨンに"ある"お願いをする…。

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高齢者向け売春婦という聞き慣れない単語と思ったけれども、実際に韓国では鐘路などを中心に「バッグに『バッカスD』という滋養強壮ドリンクを入れて持ち歩き、高齢者を対象に売春行為を行うバッカスおばさん」が1970年代頃からいるらしい。年金などの社会保障制度が整っていない韓国では、高齢者の貧困率がOECD加盟国の中でも最下位なのだ。

その中でも「死ぬほど上手い」と噂のソヨンはホテル代込で約3000円。ホテル代を抜くと手元に残るのは約2000円。そんなに安くて生活費の足しになんてなるのかなと思ったけども、確かにお年寄りにこれだけ稼げる仕事はなかなかない。寒空の中、古紙やビンを集めて数百円しか手に入らないよりもずっと良いから、鐘路には売春婦もそれを買うお爺さん達も集まっているのだ。お爺ちゃんのだらしない体は見ていられなかった。

高齢者相手だから皆亡くなるか病気で客がいなくなっていく。寝たきりになったお爺さん達の「生きてるのが惨めだ。死にたい。」「妻に残されて1人で生きてきたのが哀れで惨めだ。そばに誰もいないで死ぬのだと思うと虚しくて怖い。」という言葉がソヨンに動揺と戸惑いを与える。皆ソヨンに"ある"お願いをするのだが、あまりにも悲痛な叫びにソヨンもそれを受け入れてしまう。「僕は醒めない眠りにつくだけ。ソヨンさんはここで一睡すればいい。」と薬を1粒手渡すお爺さん、個人的名セリフと名シーン。

ソヨンはいつも同じジージャンを羽織っているが、髪型を変えたり中の服を変えたりとしっかりオシャレで見ていて素敵だった。自分をお婆さんと呼ぶな、というセリフが劇中にあったため、タイトルが「バッカス・レディ」なのかな。
上客がいなくなって悲しむんじゃなくて舌打ちする面白さもあり、昔からの友人と再会した時に出てきた男の名前が外国人ばかりだった謎も解けたり、重たい設定だが面白さや見どころも多い作品。
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