ちろる

モカ色の車のちろるのレビュー・感想・評価

モカ色の車(2016年製作の映画)
3.4
息子をひき逃げしたとされる、モカ色のベンツを探すためだけに執念を燃やすディアンヌ。

印象的なのは、虎視眈々と獲物を待つ、虎のようなディアンヌの目だった。

希望も捨て、表情を忘れたような顔の中では、あの静かな哀しみと怒りを秘めた大きな目が唯一感情を表していて、一見穏やかでも観ているこちらでさえも、居心地の悪さを感じるほどの狂気を見せていた。

注目すべきは、このディアンヌを演じるエマニエル ドゥヴォスと魅惑的なブロンド熟女を演じたナタリー バイの抑え気味の緊迫感のある、いくつかの会話シーン。
初めは余裕の表情を見せていたが、少しずつ、この奇妙なディアンヌの存在に戸惑いはじめるナタリー演じるブロンド女性の感情の揺れ動きが絶妙だった。

時折目の前に現れる息子リュークの幻覚が、ママ、もうやめてよと言っているように見えるけれど、復讐に燃える母親の彼女には、犯人を早く探してと訴えているように感じているのだろうか。
全てを捨てて過去を追い続けることは不毛であっても、大切な息子を失った悲しみへの処理のため、こんな風に狂気に走る母親の気持ちは少し分かる気がした。

憎むべきは、愛する息子をひいた車かそれとも、こうなった運命なのか。

ディアンヌの心の葛藤を、穏やかで美しいスイス国境付近の湖畔の街の中で適度な緊張感とともに描かれる人と人との騙し合い。

ラストのディアンヌの選択は人の罪に対する怒りの処理の仕方について、自分も考えさせられる、大人のサスペンスでした。
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