櫻イミト

裏町の櫻イミトのレビュー・感想・評価

裏町(1932年製作の映画)
4.0
メロドラマの名手ジョン・M・スタール監督の代表作。不倫ヒューマンドラマ。撮影は「最後の人」(1924)「メトロポリス」(1927)のカール・フロイント。原作は本監督「模倣の人生」(1934)=リメイク作「悲しみは空の彼方に」(1959)と同じく米の人気女流作家ファニー・ハースト。

20世紀初頭オハイオ州シンシナティ。服装材料店の娘レイ(アイリーン・ダン)は控えめな美人。言い寄って来る男は多かったが彼女はいつも取り合わず、隣の自転車屋の実直な跡継ぎクルトも求婚をやんわりと断られた。それがある日、偶然出会った若い銀行家ワルターと両想いの恋に落ちる。実はワルターは財産家の娘と出世絡みの婚約をしていることを打ち明けるが、もはや恋心は停められない。ワルターは今度公園で行われる演奏会で母に紹介し結婚を認めてもらおうと約束する。しかし当日、レイはやむを得ない事情で演奏会に行くのが遅れてしまい。。。

不倫女性の生涯をしっとりと抑えたトーンで描きあげていた。特に終盤は情感にあふれ、ラストカットにはカール・テオドア・ドライヤー監督の聖なる映画を想起した。

個人的に、不倫の悩みを聞くのは女友達ばかりで男からは聞いたことがない。妻帯者の男は後ろめたくて内に抱えるしかないのだろう。両者とも関係を続けていくのは相当なストレスだし、友達にも「そんなに辛いのなら思い切って清算したら?」と言うのがお決まりなのだが、彼女たちの多くは離れないでいる。気の毒だと思う反面、愛を貫き通す生き様はそれはそれで尊いかもとも思ったりする。教条主義、原理主義で収まるほど人間は簡単ではない。

本作はそんな彼女たちを象徴するような不倫人生を、その最後まで描きっている。「裏町」とは、大手を振って歩けない日陰の道の意味だ。例によって男は身勝手なものと思うが、二人は納得ずくで秘密の愛を守り続ける。

終盤で数十年後に時間が移り変わる。決して“軽々と”ではない。白髪が時間の重さを感じさせ、“日陰”者としての人生もワルターの息子の登場で一気に深刻さを増す。その上で、映画は主人公にささやかだけれど大きな労いを与える。ここで挿入される“if”の回想シーンが秀逸で、個人的には「ゴッド・ファーザーPART III」のラストを超えるほど胸に迫るものがあった。そして前述した聖なるラストカット。日陰の人生を歩き続けたレイに一筋の光明が差すのである。撮影は前年に「魔人ドラキュラ」(1931)を手掛けたカール・フロイント。光と闇の魔術師たる本領を発揮していた。

スタール監督の作品は日本ではあまりDVD化されていないが、メロドラマの作家としてはダグラス・サーク監督の先達であり海外評価は高い。本作を初め名作の数々が日本語版DVD化されることを望みたい。

※本作は、1941年にロバート・スティーヴンソン監督がシャルル・ボワイエ×マーガレット・サラヴァン主演でリメイク。1961年にはデイヴィッド・ミラー監督がスーザン・ヘイワード×ジョン・ギャヴィン主演で二度目リメイクされている。
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