くまちゃん

エクスペンダブルズ ニューブラッドのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

「エクスペンダブルズ」は紛れもないアイドル映画だった。一時代を築き上げた神7が現役を退きなんの前触れもなく地下アイドルが参入してくる。魅力が損なわれて当然だ。マンパワーが違う。決してミーガン・フォックスや50セントが力不足だと言っているわけではない。過去が偉大過ぎたのだ。確かにトニー・ジャーやイコ・ウワイスのシリーズ参加は感涙ものだが、彼らはスコット・アドキンスと同格に数えるべきだ。つまりアーノルド・シュワルツェネッガーやジェット・リーがいてこそスケールアップの一助となる。よって回を追う事にバルクアップしてきた今シリーズも4作目になり初のパワーダウンを見せた。

バーニー・ロスは相棒リー・クリスマスの元を訪れる。クリスマスは恋人ジーナと痴話喧嘩の真っ只中。冷静にいなそうとするクリスマスと必要以上にヒステリックなジーナの図は滑稽である。まさに犬も食わないレベル。原因が何かはわからないし我々が知る必要もないほど些細なことに違いない。クリスマスは意外と一途な面を持ち、例え浮気されても諦めない未練がましさがある。今作で恋人がレイスからジーナに変わったのはなぜか。「エクスペンダブルズ2」時点ではあんなに仲が良かったのに。おそらくレイスの前にクリスマスを凌ぐハゲでマッチョなナイスガイが現れたに違いない。
ジーナを演じたミーガン・フォックスは「トランスフォーマー」の初期2作でヒロインを務めていたが3作目「ダークサイド・ムーン」では降板しロージー・ハンティントン=ホワイトリーにヒロインの座を取って代わられた。ロージーはジェイソン・ステイサムのプライベートパートナーである。ジーナのキャスティングに他意はないだろうが何か深い縁のようなものを感じる。

エクスペンダブルズの次なるミッションは国際的テロ組織による核爆弾入手を阻止すること。バーニーとクリスマス、ガンナー、トールといった馴染のメンバーに新顔を加えた新生チームはすぐさまリビアへ飛んだ。

現場は既に戦場と化し、粉塵が舞い、火薬と血と死臭が充満していた。スアルト・ラフマト率いるテログループは核爆弾へ王手をかけていたが、エクスペンダブルズの武力介入がそれを阻む。熾烈、苛烈、激烈なカーチェイスと銃撃戦。筋肉と筋肉のぶつかりあい。この激戦を制するのは…。

バーニーから無線が入った。
自身が乗る飛行機が被弾したらしい。
大空を火を吹いて降下する巨大な翼。
バーニーはミッションの優先を促し、イージーは躊躇なくそれに従おうとする。彼等は家族ではなく友人でもない。同じ目的のために集ったただの消耗品だ。それはチームの創設メンバーであるバーニーも例外ではない。付き合いの長いガンナーやトールも諦めた。さらばリーダー。
だが、バーニー最期の命令を確固たる信念を持って無視する漢がいた。リー・クリスマスである。彼はミッションよりバーニーを選び死力を尽くして救出に向かう。クリスマスにとってバーニーはただの消耗品ではない。兄弟同然なのだ。
やがて鉄のボディは残酷な軋みと轟音のもとに砕け散り、コックピットからはバーニーと思われる焼死体が発見された。我らの偉大なるリーダーは死んだのだ。

CIAのマーシュはバーニーとは旧知の仲である。今回のミッションを斡旋したのもマーシュだ。彼は作戦行動が失敗した全責任をクリスマスに押し付けた。他のメンバーもそれに同意し、チームをバーニーと共に牽引してきたメカニックなトランスポーターは追放処分となった。

エクスペンダブルズをクビになったクリスマスは自宅で一人寂しく求人情報を漁る。そこにこれまでステイサムが映画内で経験してきた職歴を載せるぐらいの遊び心があってもよかっただろう。
クリスマスは明確に命令違反を犯した。その責任は追求されるべきだろう。ならばガンナーはどうだろうか。老眼と断酒による禁断症状で標的が定まらずまともな狙撃任務を果たせなかった。ガンナーにも失敗の責任があるのではないか。マーシュはなぜガンナーを残したのか。また他の面々も100%のパフォーマンスができたと言えるのだろうか。そもそもエクスペンダブルズの作戦行動はアバウトで個人スキルに頼ったものが多い。今回もリーダーがバーニー・ロスならそれは変わらないだろうし、従来のメンバーならバーニーが危険に晒され、クリスマスが救出に向かったとてミッションはクリアできていたはずだ。つまり今回作戦行動が失敗に終わった原因はガンナーの老化と他メンバーの経験不足による部分が大きい。裏稼業としての経験ではない。アクションスターとしてのキャリアの問題だ。にも関わらずクリスマスのみに責任を押し付ける現エクスペンダブルズ及びマーシュには失意の念を禁じ得ない。

バーニー、クリスマス、二人が抜けたエクスペンダブルズは全員仲良く拘束される。チャーチやトレンチやヤンが仲良く捕まるなど考えられるだろうか。洞穴に生き埋めになった時はトレンチがI'll be backとともに現れた。今回は脱出の際排水機構を作動させるため感知部を濡らさなければならず排尿という短絡的かつ幼稚な方法を用いている。低俗なギャグに頼らなければならなかったのはI'll be backに匹敵する代替案がなかったからだろう。また前作ではバーニーが旧友を捨て若手で新たなチームを組んだ際も全員が捕まっていた。それを救ったのはやはりレジェンドマッスル達だった。老体を嘲る若手の存在は伝説の引き立て役に過ぎない。今作ではジェイソン・ステイサムの活躍と哀愁を際立たせるために他のメンバーが存在する。その中にシリーズ皆勤賞のドルフ・ラングレンとランディ・クートゥアが含まれているのは彼等にとってもファンにとっても不幸としか言えない。

行き場を失ったクリスマスはジーナに愛用のナイフを渡す。バーニーの仇敵を地獄に叩き落す。たがエクスペンダブルズではない自分にはどうすることもできない。せめて、この無力な男の想いだけでも同行させて欲しい。ジーナは隣で裸で寝そべる哀れな男に同情しナイフを受け取った。

ナイフには発信機が取り付けてある。行き先は確認した。だが協力者が必要だ。クリスマスは隠居生活を送る凄腕の殺人マッハ、デーシャを訪ねる。デーシャもかつてはエクスペンダブルズとしてバーニーとともに暴れまわったマッスル戦士の1人だ。だが殺戮の日々に虚しさを覚え心が消失する前に足を洗ったのだ。
共に行こうと手を差し伸べるクリスマスを拒絶するデーシャ。昔の自分には戻りたくない。だがここで戦わなければトニー・ジャーである意味がない。
2002年に「トランスポーター」が2003年に「マッハ!!!!!!!!」が制作され同時期にアクションスターとしての道を切り開いたジェイソン・ステイサムとトニー・ジャーの共闘には胸が熱くなる。デーシャの悟りを開いたかのような非戦闘的スタイルはなんなだったのか?解脱とは様々な人間を縛るものからの開放を意味する。つまり、戦いから距離を置いていた生活が禁欲的で、拳と肘と膝で相手の骨を砕いている今の姿こそがデーシャの本来の姿。全てのしがらみからの開放された状態なのだろう。

ラフマトの右腕ボクはラフマトに次ぐ高い戦闘スキルを持つ。クリスマスはラフマトを追い、デーシャはボクと対峙する。我々は知っている。デーシャいや、トニー・ジャーの強さを。「マッハ!!!!!!!!」や「トムヤムクン」で見せた神がかった古式ムエタイの破壊力。彼を相手にするには相応の人材でなければならない。実際デーシャの疾風怒濤な技の連打はボクを容赦なく追い詰める。だがそこへエクスペンダブルズのメンバーラッシュが加勢に入る。鎖を使った特殊な戦い方は戦場向きとは言えない。よく今まで生き残ってきたものだ。デーシャとボクではデーシャの方が圧倒的に強い。そこへラッシュを入れるのは邪魔でしか無い。実際ほぼ役には立っておらずデーシャも戦いづらそうだ。これはおそらくラッシュに活躍の場を与えていなかった事を思い出したからここに追加したのか、もしくはデーシャが強すぎるためボクとのパワーバランスを調節する枷としてデーシャに付けたのかのどちらかだろう。

クリスマスとラフマトの一騎打ちは誰もが待ち望んだカードだ。ジェイソン・ステイサムとイコ・ウワイス。「エクスペンダブルズ2」でのスコット・アドキンス戦を彷彿とさせる。しかし、その内容はベストバウトとは程遠い不完全燃焼気味なものだった。イコ・ウワイスがトンファーを構えた瞬間観客は思ったはずだ「あ、シラットじゃないんだ」と。さらにその中途半端なアクションシークエンスはトンファーの特性を活かしきれておらず、イコ・ウワイスとジェイソン・ステイサム両者のポテンシャルも引き出すには至らなかった。

クライマックスで生きていたバーニーがクリスマスの頭すれすれでマーシュを狙撃するという1作目に対するセルフオマージュが織り込まれている。正直バーニーが生きていようが死んでいようがどちらでもよかった。ただいずれにせよ展開に対する合理的な責任は果たして欲しかった。生きているのであればそれに対する伏線や示唆を散りばめる必要があっただろうし、死んでいるのであればその最期は劇的でファンの心情を煽るものでなければならなかったはずだ。全てにおいて中途半端。

今シリーズはB級風超弩級アクション映画だったが、それをスコット・ウォーは正真正銘のB級アクション映画へと引きずり下ろしてしまった。ラジー賞へのノミネートも納得だろう。シルヴェスター・スタローンの「大脱出」が回を追う事に迷走していったのは記憶に新しい。「エクスペンダブルズ」は3作で打ち切るべきだった。これ以上の惰性は誰も望まないし誰も幸福になれない。観客の心は決して消耗品であってはならないのだ。
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