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作家、本当のJ.T.リロイのpanpieのレビュー・感想・評価

作家、本当のJ.T.リロイ(2016年製作の映画)
4.0
一体誰?
JTリロイなる作家の事は全く知らずしかも出演者が錚々たる面々であり公開前からかなり気になっていたドキュメンタリー作品。
今週末で上映終了となるのでハシゴして慌てて観に行った。

1996年に荒唐無稽とも言える壮絶な自伝「サラ、神に背いた少年」で一世を風靡した美少年作家JTリロイ。
10年後にニューヨークタイムズ紙がJTリロイは存在しない、その正体は40代のローラ・アルバートだとする記事を暴露し当時一大センセーションを巻き起こした。
ガス・ヴァン・サント、ウィノナ・ライダー、アーシア・アルジェント、トム・ウェイツ、コートニー・ラブ、ビリー・コーガン、マドンナ、U2のボノまで存在しない作家JTリロイをもてはやし振り回された。
何故JTリロイは賞賛されもてはやされたのか真実に迫るドキュメンタリー。

冒頭ミュージシャンの様なルックスの女性が登場し語り始める。
彼女がローラ・アルバート。
そもそもJTリロイことローラ・アルバートが十代で悩み相談に電話した事からJTリロイが彼女の中に出現したとされる。
今回の騒動はいかにも思春期の子供の嘘を見抜けなかった精神科医が書いてみないか?とその気にさせた事に端を発している。
幼少期にさらわれてメキシコで性的虐待に合いその後女装の男娼としての日々を綴った自称自伝小説を出版しそれを評価した作家によって更にもてはやされていく様はあまりに唐突で恐ろしい程の勢いだ。
ただしこれを書いたのは出産し母となってからの35歳の時だというから驚きだ!
著書を読んだ事がないので何とも言えないが彼女に元々才能があったのかもしれないが彗星の如く突然現れた若く美しい作家に出版社は飛びつき色めき立ち一躍時代の寵児となった。
ローラ・アルバート自身はその頃太っている事にコンプレックスを持ち次第に本が売れ有名人となっていくと焦りユニセックスな風貌の美少年(本当は女性なのだが)を週50ドルで雇う事にしこの18歳の少年をJTリロイとして表舞台に立たせ自分は世話役として常に傍に付き添った。
商談にはJTリロイは行かせずローラが代理の形で行っていたというから本人なのだから当たり前といえば当たり前だが仕切っていたらしい。
実はこの美少年は夫の妹だったそうだ。

文壇に留まらずファッション業界や音楽界にも活躍の場を広げ広く知られるようになりガス・ヴァン・サントは「エレファント」の脚本を依頼したそうだが今はクレジットで確認できない。
この作品は2003年にカンヌでパルムドールを受賞したがローラは表向き世話役だった為にレッドカーペットを歩く事は出来なかったという。
アーシア・アルジェントなど自分が映画化する為にJTリロイに女優を武器にすり寄っていく様は分かり易すぎて逆に流石と思ってしまった。
ガス・ヴァン・サント監督もアーシア・アルジェントも真実が分かった時どう思ったのだろう。
自分が騙されていた渦中を思い出してやはり怒ったのかな?
それとも恥ずかしかったのかな?

虚像のJTリロイがもてはやされる様になりローラは真実を語りたい欲求にかられ始める。
今や胃を小さくするバイパス手術も受け表舞台に出ても恥ずかしくない程痩せて理想のスタイルを手に入れたローラは一人歩きを始めたJTリロイは本当は私なのよ!と公言したかったはずだ。

それにしてもよくもまぁ通話記録をご丁寧に録音していた事に驚く。
昔の留守電て小さいカセットテープ付いていたんだっけ?
今の電話は通話記録は留守電以外で録音できるのかな?なんて思ってしまった。
いつかこの茶番がバレてしまう事が始めから分かっていたかの様に証拠を残したかったのかな。
ビリー・コーガンには打ち明けてるし。
彼は知っていて黙っていたと思うとローラとは結婚していながら恋人関係だったのかな?
それをバラした人物が夫だったのでしかもそれで一儲けしようとしていたなんて後で分かったら私なら人間不信になっちゃうなぁ。
やっぱりお金が絡むと必ず汚らしい人間の一面が出てきちゃいますね。

ローラが語っている真実を当時の写真や通話音声、アニメーションを使っていて観せる工夫もされていて最後まで興味深く観る事が出来た。

誰しも自分に嫌気がさし別人になりたいという変身願望があると思う。
大好きなフィルマも本名で顔出しは躊躇してしまうからローラがペンネームを使うのは理解できる。
こんなに売れると思っていなかったからたまたま別人に依頼したらこんなになっちゃった!というところが真実なんだろう。
悪意はなかったと思いたい。
あれよあれよという間に祭り上げられもしかしたら自身もどこまで行けるかその先まで興味本位で見届けたかっただけだったのかもしれない。
お騒がせだけど。

ローラは詐欺罪に問われたけど無罪になり今も執筆活動を続けているそうだ。
太っているというコンプレックスが彼女の起爆剤となって作家としての道を開いた。
秘密がなくなったローラは今はコンプレックスも克服してしまってちゃんと作家として書けているのかな?
真実が分かってしまって魔法が解けてしまったからこれからはイバラの道だと思うけどこれからは何事にも嘘はなく誠実に堅実に生きていって欲しいと思う反面また自分への戒めかと思ってしまった。
ワイドショー的な暴露映画は想像したよりなかなか面白かった。
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