青二歳

ヘル・アンリミテッドの青二歳のレビュー・感想・評価

ヘル・アンリミテッド(1936年製作の映画)
3.6
これを1936年に作ってるから興味深い。ノーマン・マクラレンによる風刺映画。ど直球の反戦映画で啓蒙的というか扇情的ではありますが、戦争で儲かる存在を描いた点で、今見ても中々面白い。まだイギリスのスコットランドにいた頃の作品ですね。第二次世界大戦が始まる('39)前なので、どういう意図があったのか気になるところ。

もう陰謀論全開って感じの軍需産業の描き方がとても可笑しい。石ノ森の009ブラックゴーストのイメージそのままです。ただ陰謀論で片付けるには惜しい面白さ。第一次世界大戦がいかに人類が初めて経験することだらけだったかということがよく分かります。
戦争で儲かる…戦争が経済活動であること。税金も変わるし為替も動くし、庶民の日用品の物価も高騰する、経済的な活動であること。そして新しい兵器のバリエーション、膨大な死傷者、航空機の発展による空襲という災厄。今や当たり前ですが、これらは人類が経験する初めてのことで、少なくとも当時のマクラレンが如何に驚き嘆いたかが伝わってきます。ほか通信手段の発達により情報の価値が上がることも描かれていたり、興味深い描写もたくさんありました。第一次世界大戦当時の映像も貴重でしょう。

特にストップモーションアニメーションならではの表現が多く面白いです。軍需産業の黒幕のような謎の男がチェス盤を見つめ、盤上の“コマ”を自在に動かしているさまなんてザ陰謀論っぽくてカッコいい。
稼いだお金がストップモーションでトントンと積み上がっていくシーンもテンポが良くて楽しい。戦争という舞台で(なにか大きな力に)振り回される滑稽さを暴くというスタンスがいいのでしょうか。陰鬱に戦争の悲惨さを訴えるのばかりでないので、飽きずに見られるように感じます。
もちろん反戦の訴えはラストに直球で畳み掛ける訳ですが、不思議と押し付けがましくはない。というのも反戦の根拠が、人権などの戦後のイシューではなく、「あんな悲惨なこと、一部の人間だけに利するためになんかやってられっか馬鹿馬鹿しい」という斜に構えたような視点を感じさせるからかもしれません。
青二歳

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