むーしゅ

MEG ザ・モンスターのむーしゅのレビュー・感想・評価

MEG ザ・モンスター(2018年製作の映画)
3.1
 久々に鮫が出るパニック映画をごり押ししていたので観賞。監督は「クール・ランニング」や「ナショナル・トレジャー」シリーズでお馴染みのJon Turteltaub。とはいえ何度も企画中断を繰り返しその度にスタッフもフルチェンジしているので、彼も完全に雇われ監督ですね。「シェイプ・オブ・ウォーター」のGuillermo del Toro監督も以前は名前に上がっていたようですが、del Toro監督版ならより見たかったかもです。

 上海に建設された海洋研究所マナ・ワン。ジャン博士の指揮で今まで海底だと思われていた地点の更に下へ到達した探査艇は、巨大生物の攻撃を受け浮上できなくなってしまう。探査艇の救出に向かったテイラーは彼らを救出し地上へ連れ戻すも、謎の巨大生物の正体であるメガロドンを地上付近へ連れてきてしまうのだが・・・という話。映画全体に鮫映画の代名詞「ジョーズ」のオマージュが散りばめられていることで話題になっていますが、それよりも鼻歌ですよ、鼻歌。"Just keep swimming, Just keep swimming"ってニモやないかい。「ファインディング・ニモ」でドリーが陽気に歌い、マーリンにうざがられていたあの唄を歌うJason Statham。シリアスなシーンで笑いました。

 本作は巨大生物のパニック映画ということで、ストーリーをどうこう言っても仕方ないということもありますが、「ジョーズ」の作り出した枠に適度に要素を追加しつつ、でも離れずにというような状態で進みます。そういう意味では見終えても特別驚きも無いのが正直なところ。とはいえ時代の違いもあり、映像に関しては非常に強化されており見応えありです。中でも鮫の作り込みが素晴らしく、優雅に泳ぐ姿は圧巻でした。「ジョーズ」では、鮫が泳ぐ=背びれが見えるという表現でしたが、本作では海の中を動き回る姿を見ることができるため、より鮫が生きていることを実感できドキュメンタリーのようです。また冒頭では海底の更に下にある未知の領域へ踏み込む描写があり、少しファンタジー要素をもった最新映像を楽しむこともできます。イメージとしては「海底二万哩」ですね。ただ欲を言えばこの辺りのシーンは引きの映像は無しで、全て船からの映像にしてほしかったですね。せっかくお金をかけて作り込んだ海の底なので、これでもかと見せたかったのかと思いますが、ワクワク感を乗組員と同じ目線で体感するためにも、彼らの目線だけで見たかったです。引きの映像が入ると急に現実に引き戻される感じがしてしまいます。

 そんな見応えある映像ではあるのですが、一方で本作が決定的に物足りないのは映像の迫力です。これまでの鮫の映画であれば、半身を噛られてじたばたしたり、足だけ噛みちぎられたりするのが定番ですが、本作は基本的に丸飲み中心。見たいわけでは無いけれど何となく期待してしまうシーンなだけに非常に残念です。これはメガロドンが大きすぎることも原因ですが、それ以上に中国市場への意識であるようにも思います。中国と米国の合作であることが既に話題にあがっていますが、中国といえば注意すべきは検閲。先日、"習近平国家主席がくまのプーさんに似ている"という理由から「プーと大人になった僕」が上映禁止になったことが話題となっていましたが、中国の検閲は想像以上に色々な壁があります。日本で人気の「デッドプール」や「スーサイド・スクワッド」も作中の過激描写からか中国では上映禁止となっており、本作も最初から中国で公開出来るような作りとしているかのようなオブラートに包んだ描写にとどめています。そのオブラート感によって、お金をつぎ込んだわりには迫力に欠けるという印象が非常に強い。言ってみれば、鮫が出てくるファミリームービーのような。中国人の子供をちょいちょい挟んでくるところもまさにそんな意図を感じます。またMasi Okaさんが出てきた時点で予測はつきましたが、最初に犠牲になるのは日本人。かつてのハリウッド映画で必ず黒人が最初に犠牲になるのと同じですね。悪くない作品ではありましたが、「スカイスクレイパー」同様、ハリウッドもとうとう中国に向かっていくのかと新しい始まりを感じてしまう映画でした。

 ちなみに原作はSteve Altenが1997年に出版した作品で、主人公のJonas Taylorが日本人のMasao Tanakaとメガロドンを探す話だそう。97年なのでまだまだ日本も元気な時代だったのかもしれませんが、そのあたりがそっくりそのまま中国に置き換えられていて、何だか作品よりも周辺事情が面白い作品です。
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