津軽系こけし

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの津軽系こけしのレビュー・感想・評価

4.2
壮大で可愛らしい映像叙事詩


【突発的な企画始動】
交通事故で亡くなった男がなんとも愛らしいゴーストとなって妻の待つ家へと帰るという、さもパトリックスウェイジでも出てきそうなあらすじの今作は実のところ極秘裏に制作された作品なのである。
映画を作るとなった時は、まず書類的な企画の立ち上がりにはじまり、その後マーケットにあわせ企画の価値を吟味してから資金を募るのが一般的だが、この映画はまずカメラを撮り始めるところから企画が始まったのだ。つまり、金銭的な価値観から完全に逸脱して、創作意欲だけを先行させた実験的な取り組みとして始まったのである。

この実験的な創作姿勢は、監督のデヴィッドロウリーがいかに繊細な人間かをおのずと物語っている。彼はインタビューにおいても、今作が世間で評価されることを気にしていないような節を湛えている。

【住処とは何か】
そもそもロウリーがこの映画を撮ろうとしたきっかけには、実生活での引越しが絡んでいる。彼が仕事に追われ自宅に帰れない日が続くことを不満にした奥さんが引っ越しを持ちかけたのだが、初めて妻と過ごした家を捨てきれなかった彼はその提案を拒否していた。結局2人は引っ越すことになったのだが、おもむろにそのことを思い出した彼はその感情を「アゴーストストーリー」という映画へ綴ったのだ。

だから今作の住処に執着するケイシーの姿は、限りなく監督自身の意思の投影でもあるのだ。

【時間を切り抜く手腕】
今作の最も目につく特徴は、やっぱりじっくりと構えるような長撮りである。時間旅行をテーマにしていることもあってか、その長撮りには”時間”というものが克明に刻まれており、ワンショット一つにも現実のような奥行きが内在している。特にルーニーマーラが延々とパイを頬張るシーンはなかなかに力のあるシーンだった。

【まとめ&私見】
今作の力のこもったショットと、監督の意思と目が汲み取れる切り取りには唸らされる場面がいくつもあった。…なんだけど、わたしはどうにも映画の「間」というものが苦手である。だからこそこの映画も、時折退屈していた。ちなみに蓮實重彦先生は今作が大好きらしい。
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